Chapter6 封魔術 (1)

「なんかさー。

 剣だけ使ってたときとは、全然違う感じ。

 魔法を覚えて、戦略に幅ができたというかさ」


 新武器をたずさえて挑戦した闘技場のランクLをあっさりとクリアし、宿に戻ってきた私。

 新武器熟練に加え新術も覚え、相手モンスターのタイプによって戦術を切り替えられるようになってきた。

 また、先日宝珠店で購入したエーテル属性のエレメント『パープルストーン』の影響で、できるだけエーテル属性の魔術を使うように意識するようになり。

 エーテル属性の魔術の熟練度も上がり、エーテル属性の新術『エーテルスフィア』を習得することができた。

 『もしかして私、結構強くなったんじゃない?』

 希望的観測。

 その真偽を得ようと、ノム先生をじっと見つめる。


「私にも勝てそう?

 それじゃあ、また私と勝負しようか」


 ニヤニヤした顔が一気に引きつる。

 そんな私の引きつった顔を見て、今度はノムがニヤニヤする。

 ドSですね。


「確かにエレナは順調なペースで成長している。

 けど、魔術師としてはまだまだ。

 魔術の幅はもっと広くなる。

 そのためには、次のステップが非常に重要。

 闘技場Lランクもクリアしたし、早速取り掛かるの」






*****






「今日は『封魔術』について教える。

 封魔術は魔導術とあいはんする魔術。

 魔導術を封じる、と書いて封魔術」


 私は魔導学のノートの新しいページを開き、『封魔術』と記述した。


「封魔術の前に、まず魔導術エーテルについて、改めて説明する。

 エーテルはプレエーテルを攻撃可能なエネルギーに変換したもの。

 薄紫色の霧、もや、さらに収束を続けると、紫の光が、一定の形状で安定する。

 魔導術の長所は、制御が比較的容易なこと。

 収束の形状、放出の方法の自由度が高い。

 欠点は炎術、光術に比べ、若干威力が低いこと」


 先ほど書いた『封魔術』の『封』の文字を二重取り消し線で消し、『魔』と『術』の間に『導』の文字を滑り込ませる。

 ・・・。

 で、魔導術の説明、なんて言ってたっけ?


「次に封魔術アンチエーテルについて。

 ・・・。

 なんだけど。

 理論的なことが、はっきりとはわかってない」


「プレエーテルを変換するんじゃないの?」


 エーテル変換や四元素変換だったか。

 そのような変換を行うのではないのか?


「それはそう、なはず、なんだけど。

 封魔術への変換は『アンチエーテル変換』と呼ばれたりする。

 でも、実際はもっと複雑で、単純な話ではないらしい。

 私も、関連する複数冊の魔導書を読んでるけど、正確なことはわからない」


「ふーん」


「魔法の見た目は、氷がはじけるイメージ。

 だから別名で『氷術』と呼ばれたりする。

 でも、実際に氷で攻撃してるわけじゃない。

 プレエーテルから氷のような『物体』を作り出すことはできない」


 魔術で氷や水を作り出せると、何かと便利なのだが・・・

 残念。

 

「あと封魔術の話をするからには、『防衛術』の話もしておきたい」


「防衛術?」


「防衛術は魔法から身を守る防御用の魔法。

 実は、術師、というより人間の体は、みんな、封魔術で守られている」


「そうなの?

 ってことは・・・」


「もちろんエレナも。

 イメージとしては、体の表面を封魔術の薄い膜で覆われて守られているような感じ」


 私は自分の体をぺたぺたと触ってみる・・・

 が、何か、魔力的、物理的な感覚を覚えることはない。

 次に、ノムの体を触ってみる・・・


「守られてるって・・・

 でも、今、私はノムに触れるけど」


 ノムの手の甲、白い素肌に私の手を重ねてみた。

 が、摩擦抵抗、反発力などはない。

 感想は、少し冷たくてすべすべしている、くらい。

 部位的な問題かしら?

 ほっぺたとか脇腹とかだと反応が違うのでは?


 ・・・


 ・・・


 やめとこう。


「封魔術が反応するのはエーテルの魔術に対して。

 つまり、魔法攻撃に対してのみ。

 今、エレナは私に魔法攻撃を仕掛けてきてはいないので、何の反応も示さない。

 魔術攻撃を受けると、防御能力が発揮される」


「うーん・・・

 『エーテルがプラス、アンチエーテルがマイナスで打ち消し合う』

 みたいな感じかな?」


「むー。

 厳密にはちがう。

 『打ち消し合う』より、『反発する』が正しい、と思う、たぶん」


「『跳ね返す』みたいな?」


「むー、それはどうだろう・・・

 封魔術については解かってないことが多いから。

 なんとも言いづらい」


「ノムでも魔法に関して解からないことがあるんだね」


「解かってないことも多いから、教えるのも難しい」


 ノムの珍しく弱気な発言から察するに、封魔術の習得は、なかなかに苦労しそうだ。

 座学はここで終わりらしく、早速、私達は封魔術習得訓練に向かうことにした。






*****

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