Chapter6 封魔術 (2)

 ということで、いつもの平原にやってきました。


 ・・・。


 日が暮れるまでには終わりますように。


「私の予測では、3日くらいかかるはず」


「さようですか」


 絶望感すごい。

 いや、逆に考えると。

 どうせ今日中にできるはずがないのだから、本日無理して粘る必要もないのだな。

 無理せず、着実に取り組もう。

 私の気持ちの切り替えが終わると、ノムが杖を構えて言った。


「まず、私がやってみせるから。

 見ていて」


 ノムが構えた杖の先端、半透明、白色のコアを見つめる。

 間もなく、そのコアの向こうに水色の魔力球が煌く。

 水色、綺麗。

 その後、少しの間をおいて、魔力球が放出される。


『バギンッ!

 ギギギッギギギギギギン!!! 』


 放出された魔力球は一定距離進んだところで炸裂する。

 例えるなら、氷が砕けるような感じ。

 って、おんなじこと、ノムも言ってたっけ。

 封魔術が『氷術』と呼ばれる所以ゆえんがよくわかった。


「今のが、封魔術の純術。

 一般的には『ダイアブレイク』と呼ばれている。

 その他、別称でダイア、アイス、フリーズなど。

 各自、好きなように呼んでる」


「『ダイアブレイク』ね」


「封魔術には、相手の封魔防壁や魔導防壁の力を弱める力がある。

 ここからは仮説だけど、

 『封魔術の力で封魔防壁を弱めた上でエーテルのエネルギーで相手を攻撃する』、らしい。

 また別の説では、

 『自分自身のエーテルとアンチエーテルを反発させたときに生じるエネルギーで相手を攻撃する』というようなものもある」


「使ったことないから、コメントのしようがないよ」


「使えるようになったらエレナの意見も聞いてみたい。

 ということで。

 さっそくやってみて」


 ・・・。

 どうしろと?

 

「なんとなく、さっきの魔法が発動しそうなようにイメージして。

 遺憾ながら、現状の私の知識では、そういうふうにしか指導できない」


「まあ、適当にやってみますよ」


 大切なのは、集中力。

 氷が砕け散る映像を脳内にイメージして・・・

 それだけ。

 それだけに集中。


 ・・・


 ・・・・・・


 集中力が必要な場合って、詠唱とかやったほうがいいのかしら?


「静寂を保っていたその氷塊は、

 今、その熱い冷たさを取り戻す!

 ダイアブレイク!!」



 ・・・



 静寂。

 何も起きなかった。

 かっこいいこと言ってみてもダメなものはダメか。


「静寂を保っていたその氷塊はー、

 今その熱い冷たさを取り戻すーー。

 ・・・。

 ちょっとユニーク」


 無表情でもわかる、あからさまにバカにしたトーン。

 その後の『ちょっとユニーク』の発言のところでは、心底うれしそうにニコニコしていた。

 ・・・。

 もう、そういうのやめよう。


「詠唱は今は必要ないから。

 今のような感じで、何回か繰り返しやってみて。

 がんばれ」


「まあ、やってみますよ」






*****






 封魔術習得3日目。

 大先生の予想通りなら今日習得できるようになるはず。

 が、全くもって、習得できる気がしない。

 氷が砕け散る感じどころか、水色の魔力球さえ発現させられていない。


 ・・・。


 これ、無理なんじゃない?


「1ついい案があるよ」


 ノムが、何か提案をしてくれるようだ。

 そんないい案があるのなら早めに言って欲しい。


「私の封魔術をエレナにぶつけて、体で覚えさせる」


「死ぬって!!」

 

 何言ってんのこの

 馬鹿なの?死ぬの?(私が)

 廃案を必死にアピールすると、ノムが次善案を出してくれる。


「うーん、じゃあこんなのは?」


 そう言うと、ノムが私の背後に移動する。

 吐息がかかりそうなほど近く。

 そして、実際に吐息が首筋を掠め。

 背中に、柔らかさと温もりを感じて。

 ノムの両手が私を包み込み、前方へ。

 

 後ろから抱きしめられましたが。

 どういうこと?


「一緒に魔法を放つ。

 私の杖のコアの部分に、エレナの魔力を収束させてみて」


「それで死ななくてすむなら、やってみますよ」


 ノムの杖の柄を、2人で一緒に握る。

 初めての共同作業。

 その後、杖の先端のコアに向け、ゆっくり、魔力を流していく。

 ここで、バーストやスパークの魔術の発動をイメージしてはいけないのだろう。

 ある意味、無心に近づいた方がよいのかもしれない、と判断。


 それにしても。

 これだけ近接すると、ノムの魔力の実力がよくわかる。

 普段はノムお得意のオーラセーブの技能で隠されている魔力が、ダイレクトに伝わってくる。

 彼女の体躯の柔らかさ、それに反するような、第六感がざわめく、圧力のような感覚。

 これが、敵対する相手だと考えるとゾッとする。


『バギンッ!

 ギギギッギギギギギギン!!!』


 私の思考がれている間に、ダイアブレイク発動が完了していた。

 今のは、およそノムの魔力だけで発動されたのか?

 ある程度は、私の魔力成分も含まれていたのか?

 よくわからない。

 が、封魔術発動の『感覚』は、少し伝わったような。


「うーん。

 ちょっとだけ、わかったかも」


「うん。

 それじゃあ、今度は一人でやってみて」


 ノムが杖を私に渡し、距離を取る。

 感覚を忘れないうちに。

 私はすぐに前を向き、杖のコアを見つめ、精神集中を始める。

 

 魔力量は少なくてよい。

 他属性発動の感覚は一旦忘れ、先ほどと同じ感覚で。

 注意点を脳内で復唱したうえで、杖に魔力を流していく。


 流し。

 

 流し。


 杖の先端が水色に光り。


 間もなく。


 林檎サイズ、小さな水色の魔力球が形成される。

 

 光、消えちゃう前に、放出を!

 

「ギン!

 ギギン!!!」


 放出された魔力球が、前方で小さく弾ける。

 小粒程度の氷だったけど、できたと言っていいのかしら?

 合否の判定を求め、私はノムを見つめる。

 

「成功」


「いよーっし、できたー!

 これで全属性制覇だ!」


「おめでとう」


 ノムが素直にねぎらいの言葉をかけてくれる。

 今夜はお祝いかな?

 ・・・。


「じゃあ帰ろう」


「今日はまだ時間があるから、封魔術ダイアブレイクの練習をする。

 今のレベルだと、弱すぎて実践では使えないし」


「ですよねー」






*****

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