Chapter5 武具

 今日はノムに連れられて、闘技場初日にも来店した武具店に来ました。

 何?

 エレメントに続いて、武具も買わせるの?

 そんなに私の財布を空にしたいの?

 ゼロになるといいことあるの?

 困ったときに巻物読んだら小金持ちになれんの?


 私が金銭的な理由でやさぐれていると、ノムが話しかけてきた。


「今日は武器について詳しく教える。

 前にも言ったけど、剣は魔法と相性が悪い。

 その理由は、魔術を補助、増幅するような加工をしにくいから。

 逆に、一番相性が良い武器が『杖』。

 杖の基本構造は、長い棒、柄、シャフトの先端に、魔力収束用途の『コア』と呼ばれる鉱石、宝石が取り付けられている、というもの。

 杖のシャフトを通し、術者の魔力を先端のコアに流し、溜める。

 『シャフト』、『コア』の2つのコンポーネントは、物理的攻撃部位でなく、それ自体に殺傷能力がある必要がないので、単純に魔術の流動、蓄積に適した素材を選択することができる」


 私は武具店を見渡して、杖のコーナーを確認する。

 形状、色、素材、種々あれど。

 確かに、おおよそ全ての杖の先端に、丸い石が取り付けられている。

 ノムの所持している白銀の杖も同様で、半透明のコアが取り付けられている。


「一方、剣は、コアを取り付ける場所がない。

 取り付けられるとしても、コアのサイズが制限される上に、場所もつばの部分に限られる。

 コアはできるだけ体から離れている方が効率が良く、つばの位置だと術者の体と近すぎる。

 また、刀身の部分は物理的攻撃部位なので、どんな素材でも使えるということはなく、使える素材が限られる。

 攻撃部位の素材に魔術と相性が良いものを使えば、『魔術と相性が良い剣』を作れる。

 ただし魔術との相性が良く、かつ剣の刀身として使える素材は極めて高価。

 駆け出し冒険者では、まず手がでない。

 別の魔術増幅技術に、刀身に『ルーン』を彫るという手があるのだけれど、刀身が細い剣は彫れるルーンのサイズが小さく、ルーンの効果も小さい。

 以上の理由から、剣は魔法と相性が悪い」


 私の得意武器を封印された理由にも、いろいろと奥深いものがあったようだ。

 では、私が今装備している槍はどうなのか?

 以前、剣よりも魔術と相性が良いと言われたが。


「でも、槍や斧は相性がいい・・・。

 だったよね」


「そう。

 槍と斧は、杖と形状が類似していて、先端、攻撃発動箇所の近くにコアを配置できる。

 さらに、杖と同じくシャフトの部分に使える素材の自由度が高いから、魔力流出効率を高めやすい。

 また、槍の場合は、剣より刀身の体積が小さくなるので、魔術と相性の良い高価な素材を刀身に使用しても、剣よりは安価となる」


 武具店内の槍や斧を観察する。

 確かに、ノムの言う通り。

 杖のように、シャフトの先端に石が取り付けられているものが多いように感じる。

 ちなみに、私が先日購入した槍には、コアは付いていない。

 誰に聞くまでもなく、安物だ。

 

 補足。

 この世界で戦闘用の『斧』というと、柄の短いものではなく、杖や槍のような長いシャフトの先にヘッドが付いた形状のものを指す。

 これらは一般的に、『長戦斧ちょうせんぷ』と呼ばれる。

 この武器屋に置いてある斧も、全て長戦斧ちょうせんぷである。

 それにしてもこの武器屋、圧倒的に長戦斧ちょうせんぷの数が多い。

 すごい違和感。

 普通、一番多いのって剣類じゃないの?

 趣味なの?

 

 その考察の流れで、剣を探してみる。

 観察の結果、店の奥の方に剣のコーナーを発見。

 プラスして、その剣のコーナーに移動済みのノムも発見。

 こっちに来いと手招きをしている。

 いつの間に移動したんだよ。

 これがノムの特殊技能、『オーラセーブ』のなせる業なのか。

 さすが。

 影の薄さで、右に出るものはいない。


 私が剣のコーナーに移動完了すると、ノムが解説を始めた。


「そしてあと2つ、魔術と相性の良い武器がある。

 まずはこれ」


 そう言って、ノムは剣を指差した。

 え?

 『剣は魔法と相性が悪い』んじゃなかったの?


「これって剣だよね。

 サイズはかなり大きいけど」


「これは『大剣』、『セーバー』と呼ばれるもの。

 剣、だけど刀身が太いから、大きなルーンを彫りやすく、細身の剣よりは魔術効率が高くなる」


「こんな大きいの扱えないかも」


 剣は扱えるが、これだけサイズが大きく重量があると、攻撃時の隙が大きくなりすぎる。

 敏捷性が取り柄の私とは、相性が悪そうだ。

 却下。


「もう少し細いのもある、これとか」


「うーん・・・。

 あ!

 持ってみると、見た目より軽いかも!」


 ノムが提案してきた、刀身が青い色をした『雷帝の魔剣』。

 最も安物の大剣、『鋼鉄の長剣』と交互に持ち替えてみると、その重量差がよくわかる。

 これならば、私が旅の間使っていた剣よりも、もうちょっと重いくらい。

 『大剣』という選択肢が、私の脳内で幅を利かせる。

 が、


「それは素材がいいから。

 だからもちろん高価」


 ノムの言葉で我に返り、値札を確認。

 100,000ジル


「こんなの買えるわけないじゃん、ものっそい高いよ」


 ぼったくりかな?

 『大剣』という選択肢が、私の脳内から逝去する。

 やっぱり最初に値札見ないとね!

 『これいいな』って思った後に値段見て諦めるときの、あの『上げて下げる』感、めっちゃ嫌。


「最初、安物しか買えないならば重くて価値を感じられないかもしれないけど。

 後々、闘技場の賞金が高くなって、かつエレナも強くなれば、軽くて魔術師向けの大剣が買えるようになる。

 その将来像に向けて、今から大剣を練習しておく、というのはアリかもしれない」


「魔法剣士って響きもいいし」


「それはどうでもいい」


 『魔法剣士エレナ』。

 語呂がいい。


「次の武器を紹介する。

 これ」


 ノムが再び剣を指差す。

 先端が湾曲し、刃が片側のみ、刀身が細い。

 生まれて初めて見るタイプの剣だ。


「これは東世界ミルティアのさらに東、和泉いずみの国というところ発祥の武器。

 『刀』、とか『ブレード』と呼ばれるもの 」


「刀身が細くて加工しにくいんじゃないの?」


 『剣』は『大剣』に比べて彫れる『ルーン』のサイズが小さくて魔術効率が悪い、とかなんとか言っていたように思う。

 ならばこの『刀』も同じように魔術効率が悪いはずだ。


「その考えは正しい。

 大剣と同じく、安物は魔術効率が非常に悪い。

 でも、刀を専門とする鍛冶屋には有能な魔導技工士が多い。

 他の武器に比べて、武具の作り手が有能。

 鉱石と鉄を混ぜた素材で刀身を作ることで、魔術性能が高くなる、らしい」


 ノムお勧めの『槍』『斧』『大剣』『刀』『杖』。

 その中では、一番『剣』に近い。

 この武器は私に合っている、かもしれない。


「最後に、杖に関しても簡単に説明する。

 魔術師向けの武器。

 術師の魔力収束、制御、放出を支援。

 魔力消費が少なくなる。

 当然、物理攻撃力はナイガシロ。

 ある程度魔術に自信がなければ、決定打となる攻撃を実現できない」


 現状、魔術に自信があるとは言えない。

 なにより、魔法の使いすぎで魔力が尽きたとき、袋叩きにされそうで怖いのだ。


「これで私がお勧めする武器、5種、全部説明した。

 この中で何を選ぶかはエレナに任せる」


「槍、斧、大剣、刀、杖の5つかー」


 やっとこさ槍に慣れてきたところで、この選択肢。

 どうしようか。

 ・・・。


「ノムはさー。

 私って何の武器が合うと思う?」


 参考までに。


「わからない。

 でも、いろいろな可能性があるという意味で、悪い意味じゃない」


「昔、別の人に同じ質問をしたら、同じようなこと言われた。

 だから無難な剣にしよう、ってことで剣を始めたんだよね」


「もしかしたら1種の武器だけでなく、いろいろな武器を扱ってみるのがいいかもしれない」


 過去の一時点を思い出す。

 あの時はまさか、『剣は魔法と相性が悪い』などと言われるとは思ってもいなかった。

 早く言ってよ。


 私は、悩んだ挙句、『悩んでもしょうがない』という結論に達する。

 ローテーション。

 私は斧から順に1つづつ扱ってみることにした。






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