Chapter4 四元素魔術 (2)

 新術習得に必要な5属性と3能力を向上させるため、私は闘技場Nランクに、複数回、出場を続ける。

 このランクから、攻撃力の高い大型の蛇のモンスターや、槍を扱うコボルトが相手に加わり、苦戦を強いられる。

 が、出場を繰り返すたび、覚えたての光術や風術を使う余裕が出てくる。

 『エーテル補収束』。

 『ファイアブレッド』。

 『サンダー』。

 『ライトムーブ』。

 出場を繰り返すたび、ノムから新しい魔術を教えてもらい、さらに戦術に幅が出てくる。

 最後に『レイショット』を教えてもらった時点で、私は合計10個の魔法を使えるようになった。

 

 『じゃあ次のランクに出場してみようか』。


 全ての術を覚えた私は、ノムの指示により次のランクMに挑戦する。

 ランクMは、初の5連戦。

 しかし、4戦目までは前ランクと同じ相手。

 問題なし。


 最終5戦目で登場したのは、色違い。

 灰色のエーテルゴーレムだった。

 紫色、これまで相手してきたゴーレムと比べ、より物理防御力が高そう。

 体躯に使用される金属素材の重厚感が、一段増している、ように感じる。

 しかし。

 硬かろうが、攻撃が一撃必殺であろうが、やることは変わらない。


 私は武器の槍を通例どおり場外に捨てると、ライトムーブの魔法で敏捷性を高め、攻撃回避に備える。

 その後、突進攻撃をかわしながら、バースト、および新しく覚えたファイアブレッドの魔術を立て続けに被弾させる。

 先の予想通り硬く、なかなかダウンを奪えない。

 しかし10発目の炎術を直撃させると、ゴーレムはその動作を停止。

 私が軽く息を吐くと、勝利を告げるアナウンスが闘技場に響いた。

 

 受付で賞金の3000ジルを受け取とり、勝利報告のためノムの待つ宿に向かう。


 ・・・。


 つもり、だったのだが。

 闘技場を出てすぐのところで、私を待ち伏せしていたと思われる青髪少女を見かけた。

 なんでいんの?






*****






「エレナ、賞金もらった?」


「強奪する気じゃないよね」


 何故、突然賞金の話をするのか?

 ノムお金たくさん持ってるよね。

 その上で私から巻き上げようとするの?

 カツアゲなの?

 お金の入ったバックを可能な限りノムから遠ざけて睨む。


「その賞金で、買い物をする」


「えー、今度こそおいしいもの食べるはずだったのに。

 あっちのほうにさ、『たこ焼き』って食べ物が売ってるらしいんだけど」


「たこ嫌い」


「誰もノムにおごるとは言ってない!」


 




*****






 贅沢な余白を使って陳列されているのは、煌びやかな宝石の付いた指輪、金や銀のネックレス、十字架のペンダント。

 ノムに連れてこられたのは意外。

 アクセサリー店だった。


 ノムがネックレスや指輪を真剣な眼差しで見つめている。

 ほんと、意外すぎる。

 いやいや、でもノムも女の子だし。


「エレナこっちに来て」


「乙女心?」


 『ノムってアクセサリーとかに興味あったんだ』などと聞くと、『文句あるか』とか言われるかもしれない。

 ので、あえて遠まわしのよくわからない質問をする。

 ちょっとよくわからなすぎたらしく、ノムがいぶかしげな表情をしている。


「何の話?

 今からエレメントの話するから」


「エレメント?」


「エレメントとは、属性成長補助効果のある装飾具のこと。

 例えば、この指輪を装着してエーテル属性の術を使うと、 未装着時よりもエーテル属性の熟練度がより高まる」


 なんか安心した。

 いつも通りの魔術解説だ。

 ノムから『この指輪私に似合うかな・・・』、とか『この指輪をしてると男性にモテるかな・・・』、って聞かれたら、『どしたの?』と聞き返しているところだった。

 『エレメント』の話そっちのけで、変な思考を巡らせていると、ノムが説明を続ける。


「ちなみに、以前、旅の途中で私がエレナにあげた赤色の鉱石が付いた指輪は、『レッドエレメント』と言って、装備するとバースト系の属性成長率が上昇する。

 エレナはバースト系が苦手だから、これを装備させていた」


「そういう理由なんだ。

 なんかお守りみたいのかと思ってた」


 そう言って私は、右手薬指にはめた指輪を眺める。

 銀色のリングに、赤色の石がはめ込まれており。

 環境光を反射して、煌めき。

 安物、にしては、そこそこ素敵なプレゼント。

 角度を変えながら、赤の石をじっくりと見つめる。

 ふと。

 もしかすると、私が今まで炎系に苦手意識を感じなかったのは、この指輪の効果があったからなのかもしれない、と思った。

 本当にその通りならば、手放したくないアイテムだ。


「でも、そろそろこっちに切り替える。

 『パープルストーン』。

 エーテル系の成長率が向上する」


 現状、炎系魔術の使い勝手のよさに気づいてしまっている私は、比較的、炎系魔術の使用率が高い。

 ノムもこの事実に気づいているのだろう。

 だからこそ、別属性の鍛錬が必要であり。

 そのための装備変更なのだ。


 ・・・。


 もう炎系だけ使えればよくない?


「ちなみに、エレメントは1つしか装備できない。

 2つ装着すると、相殺作用が働いて効果が薄れてしまうから。

 再度バースト系を育てたくなったら、装備をレッドエレメントに戻せばいい」


 なるほど。

 確かに。

 複数装備が可能なら、ノムは体中にアクセサリーを侍らせているはずだ。

 ・・・。

 そんなノムは嫌だ。


「他にもこの店には、様々なエレメントが売ってある。

 今後育てたい属性があれば、その成長補助効果のある装飾具を買って装備すればいい。

 お店の人に聞けば、詳細、教えてくれる。

 でも、まずは私がお勧めするものを見てみようか」


 ノムお勧めのアクセサリーを一緒に見て回る。


 パープルストーン 3,000$ 魔導成長増幅(中)

 琥珀       5,500$ 光術成長増幅(中)

 二色鉱石     10,000$ 風術成長増幅(中) 炎術成長増幅(小)

 封魔水晶     15,000$ 封魔成長増幅(中) 光術成長増幅(小)

 フレアルビー   30,000$ 炎術成長増幅(大) 光術成長増幅(小)

 ライトルビー   70,000$ 光術成長増幅(大) 封魔成長増幅(小)

 ダークレギオン  100,000$ 魔導成長増幅(大) 炎術成長増幅(中)

 蒼碧の宝珠    300,000$ 風術成長増幅(特大) 雷術成長増幅(中)

 虹の宝珠     700,000$ 魔炎風成長増幅(中) 光封成長増幅増幅(小) 雷成長増幅(小)

 雷帝の宝珠   1,000,000$ 雷術成長増幅(特大)


 ・・・。

 ・・・・・・。


「高い!

 なんだこれ!

 武器より高いし!」


「『宝石』だから、高くて当然」


「『雷帝の宝珠』1,000,000ジルだって・・・

 怖っ!」


 ショーケースに入ったそれは、近づくのも躊躇ためらわれる値段。

 宝石強盗とか起きないの?


「安いものでも、性能が良いものもたくさんある。

 パープルストーンは特にお勧め。

 今日はこれを買う」


 私史上最高にかわいい顔と仕草(胸に手を当てて体を若干斜めに傾け、かつ上目遣い)で、『ノム買ってよー』と無言で訴えかける。


「ふっ」


 鼻で笑われた。

 どうせ私なんかかわいくないですしね。

 その後、ノムが店員と雑談を始めたので、私はいよいよおねだりを諦め、自腹を決意する。


 パープルストーン3,000$。

 今日の闘技場の賞金3,000$。

 一銭も残んないし!

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