Chapter4 四元素魔術 (1)

「ノム大先生!

 昨日、先生にやられた傷が痛みます。

 どうにかなりませんか?」


 容赦のない爆撃を受けた体が悲鳴を上げ、私はなかばキレ気味で訴える。


「そんなの、たいした傷じゃない」


 『甘えんな』、的な返答が帰ってくる。

 くっそ!

 いつかノムより強くなって仕返ししてやる!


「回復魔法ってないの?」


 ふと気付き、何気なく尋ねる。

 ない、か。

 もしあるのなら、とっくにノムが私に使ってくれてるはずだし。


「あるけど」


「えっ、あるの!?

 あんの?

 はやめに教えてほしいんだけど!」

 

 『はやめに』というか、今教えて。

 いつになく真剣な視線でノムを見つめて懇願する。


「無理」


 あきらめんなよ!

 お前ならできる!

 その思いを、顔面で表現する。


「治癒術は高等魔術の中でも難しい部類。

 教えるのは、まだまだのちのち」


「そんなに難しいんだ」


 『高等魔術』というのがハッキリとしないが。

 いまだ私が使える代物ではないことは伝わった。

 一気にテンションが下がる。

 まあ、そんなもんだよね。

 へっ。


「治癒術を習得するには、魔導術と封魔術、両方を使いこなせる必要がある。

 今のうちから、この2属性を強化しておくべし」


「2つ?

 治癒術は魔導術と封魔術、どっちなの?」


「合成術」


「合成術?」


「2つの属性を混ぜて使う魔法。

 でも、これはもう少し先の話題。

 今は覚えなくていい。

 今日は別の話をするから。

 重要な話題」


 ノムってやっぱり詳しいんだなー。

 って、私が知らないだけか。

 治癒術や合成術、新しいキーワードが浮上し、いろいろと思考を巡らせたおかげで、体の痛みを少し忘れることができたようだ。

 『重要』という単語を受け、私は魔道学概論のノートを用意する。


「今日は『四元素魔術』の話をする。

 四元素魔術は、この前話をした、『炎』『光』『風』『雷』の4属性の魔術のこと」


「プレエーテルを『四元素変換』するんだったよね」


 現状、私は『炎』『雷』の2属性の魔術が使える。

 今日は『光』『風』の属性の話も聞けるのだろう。


「そう。

 炎なら炎の変換、風なら風の変換が行われる」

 実際は四元素変換エネルギーという特殊なエネルギーを、プレエーテルに付加し反応させることで実現される。

 と、私が読んだ本には書いてあった」

 

 ノムの表情から、『それ以上のことはわからない』というフレーズを読み取る。

 私も『炎』『雷』の2属性を使えるが、それらをどうやって実現しているか、うまくは説明できない。

 話題を切り替え、ノムが説明を続ける。


「炎、光、風、雷ともに攻撃に特化した魔術と言える。

 けれど、各属性で、特性の違いがあるの。

 ここから、各属性の特性を説明していく」


「お願いします」


「まず、炎術バースト

 別名には爆裂術、爆炎術、紅蓮術、こう術などがある」


 今後、光、風、雷の説明があることを予測し、私は表形式になるようにメモを取る。


「長所は使いやすさ、威力ともに高いこと。

 弱い敵が相手なら、炎術だけ使えれば十分。

 短所は誰もが使うが故に相手も炎術対策は万全にしてくるってこと。

 だから強敵相手には炎術だけでは敵わない事が多い。

 あと、制御の能力が成長しない」


 長所:使い勝手、威力◎

 短所:対策を立てられる

 とメモに書き込む。


「あと、エレナが比較的炎術が得意じゃない、っていうこともある」


「うー、なんかすいません」


 なんとなく謝ってしまった。

 ただ、今のところ私は炎の術に苦手意識はない。

 特にゴーレム戦で非常に重宝しており、最もお世話になっている術でもある。

 どちらかといえば好きな属性だ。


「次は光術レイ

 別名は閃光術、光線術、とう術など。

 長所はない。

 でも短所もない。

 強いて言えば、炎術より扱いにくいけどバリエーションが豊富、みたいな感じかな。

 あと、放出の能力が高くないと使いこなせない」


 長所:バリエーション◎

 短所:炎術より使いづらい

 とメモに書き込む。

 

「次は風術ウインド

 別名は風刃術、へき術など。

 長所は魔力消費が少なく、効果が広範囲に及ぶ術を使用しやすいこと。

 短所は威力がとても弱いこと。

 最初は威力が弱くて、あまり使えない。

 でも後々重要になってくるから、余裕があるときにコツコツと使っておくのがいい」


「うーん、そうする」


 長所:範囲、消費魔力◎

 短所:威力×

 とメモに書き込む。


「最後に雷術スパーク


「おー、きた」


 得意属性登場に、若干テンションがあがる。


「別名は炸裂術、雷鳴術、召雷術、そう術など。

 長所は威力。

 6属性中で随一といってもいい。

 短所は魔力消費の多さと、制御の難しさ。

 個人的な見解としては、最初のうちはあまり使わないでほしい。

 そう思ってたから、最初は教えないつもりだった。

 けど、エレナ、自然に覚えちゃったから」


 長所:威力◎

 短所:消費魔力、制御×

 とメモに書き込む。

 私がエーテルの魔法を使おうとしてスパークの魔法を習得したことは、ノムにとって想定外のことだったようだ。


「他の魔法も自然に覚えたりすることがあるの?」


 期待を込めてそう質問する。


「十分にありえる。

 各属性と3技能が熟練してくれば、より高度な魔術を自分で習得できる。

 でも最初のうちは、私が1つ1つ教えるから」


 そう言うと、ノムは魔導学概論を開くように指示を出す。

 ページをめくっていくと、そこに私のものではない筆跡を発見。

 ノム先生がこっそりと事前準備してくれていたらしい。

 いつの間に書いてたのか。

 全く気付かなかったぞ。


「このページに、私が教える予定の魔術と、習得に必要と思われる能力、その必要レベルを記してある。

 そのレベルに達したと思ったら、本を持って私のところに来て。

 新術を教えるから」


「おー、いろいろある!」


 各属性ごとに新しい魔法の名前、と思われる単語が列挙されている。

 真面目に取り組めば、これらをすべて習得できるのか。

 そう思うと、モチベーション、非常に高まる。

 私は魔術名、およびその横の属性名、数値、術の説明を1つづつ確認する。

 

 エーテル補収束 【魔導術】 魔3 収束5 制御2

   エーテル属性魔術の攻撃力上昇

 ファイアブレッド 【炎術】炎5 収束3 放出4

   炎の玉で攻撃する炎術

 レイショット 【光術】光4 収束2 放出4 制御3

   前方に短い光線を放つ光術

 ライトムーブ 【風術】風5 収束2 放出2 制御4

   術者移動速度向上

 サンダー 【雷術】雷5 収束4 放出4 制御5

   攻撃対象頭上からの強力な雷攻撃


 これらの数値が魔術習得に必要な各能力のレベルに対応しているのだろう。

 基準が不明だが。

 そんな私の考えを察したかのように、ノムが補足してくれる。 


「これらの数値は、私がこれらの魔術を習得したときに感じた各能力の必要レベルを、私の基準で決定したもの。

 相対的な値でしかないし、人によって多少変わってくる。

 あくまで目安程度」


 目安程度でも非常に助かる。

 ある魔法の習得に必要な技能がある程度でもわかれば、それに必要な修行の内容も絞り込むことができる。

 さすがは大先生。


「エレナがもう少しで習得できそうな魔術だけを書いてるから。

 特殊な能力が必要な魔術も存在するけど、そういうのは今回は書いてない」


「うーん、どれ狙おうかなー」


 得意属性である雷術サンダーも捨てがたいが、私の長所の敏捷性を更に強化してくれそうな風術ライトムーブも是非早めに覚えておきたい。


「このうち1つを覚えたら次のステップに進む、ということにしよう」


 『ステップ』という言葉で、トラウマが想起される。

 新魔法で浮かれた心が一気に冷める。


「またノムにぶっ飛ばされないといけないわけ?」


 今後も、あの『昇格死験』という名目の一方的虐待が行われるのか。

 あれ、当たり所悪かったら、ほんと死んでたからね。


「今回はない。

 そのかわり、闘技場の次のランクに出場してチェックする。

 全員倒せたら合格」


「ちょっと安心」


 ノムと比べれば、闘技場のモンスターがかわいく思えてくる。

 不思議。

 『今回は』というところはあえて無視するが。

 ・・・。

 いや、ほんとに、『今回は』とかやめて。


「じゃ、さっそく闘技場行ってくるよ」


 新術習得に向け一気に高まったモチベーションを利用しない手はない。

 私は早速、闘技場へ出向くための準備に取り掛かる。

 ランク1つ上げても大丈夫かな?


「ダメ。

 今から、ウインドとレイの魔術を教えるから」


 2つも?

 エーテル習得のときの苦労。

 それが脳内で2倍され、自然と引きつった顔になる。

 が、すぐに新術習得の期待感の方が勝り、諦めたような微笑びしょうを先生に向けた。






*****






 風属性の『ウインド』の魔法は、端的に言えばエーテルの魔法の色違い。

 収束した緑色の魔力球が、放出とともに緑色の2つのやいばに形を変え、前方の空間を切り裂く。

 威力が低いか、はまだよくわからないが、消費魔力は低い。

 攻撃射程は、もう少し慣れてくればエーテルの魔術と同等かそれ以上になりそう。

 牽制目的の攻撃などにも使えそうだ。

 ちなみに、別称『エリアルシザー』『エリアルウィング』ともいうらしい。


 光属性の『レイ』の魔法は、端的に言えば『光弾』。

 収束した桃色の魔力球を、そのまま前方に向け発射する。

 攻撃力、消費魔力、射程ともに捉えどころがない性能。

 可もなく不可もなく。

 バーストのほうが消費魔力が小さく、かつ威力が高いように感じる。

 この魔法は、あまり使わないかもしれない。

 しかし、ノムの話では、『光術は『放出』の能力が成長しやすい』らしい。

 余裕があるときに使用しておくのがよさそうだ。

 ちなみに、別称で『レイブレッド』ともいうらしい。


 そんなまとめ解説を脳内で行ったとき、街の明かりとノムが発動するグロウライトの光のみが辺りを照らすような時間になっていた。

 結局、エーテルの魔術習得のときと変わらない時間になったし。


「つらかった・・・」


 単純で短めの感想がこぼれ落ちる。


「今日中に2つとも習得できたのは上出来」


 意外なことにノムに褒められた。

 これだけ苦労すると、喜んでいいのかよくわからん。


「よーし、ごはんくーぞー!」


 街まで帰る気力を振り絞るため、私は両手を突き上げて宣言した。






*****

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