Chapter3 収束・放出・制御 (1)

「うーん、・・・うに・・・。

 痛、痛い痛い!」


 ほおの辺りに痛みを感じる。

 最初は睡眠欲のほうが勝り痛みを我慢していたが、時間が経つに連れ痛みが強くなってくる。

 何事?


「起きた?」


 お前か。

 聞き覚えのある抑揚のない声。

 寝起きで頭が回らない中でもハッキリわかる。

 

「人を起こすときはやさしく揺すって起こしてほしいんだけど。

 ほっぺたをつねるんじゃなくて」


 眠い目をこすりながら、近くにいると思われる青髪に対して要望を出す。

 『もう少し寝させて欲しい』とか『常日頃からもう少し私にやさしくしてくれてもいいんじゃない?』などの要望も浮かんだが、どうせ全部聞いてもらえないので黙殺する。


「今日は新しいこと教えるから。

 さっそくはじめる」


 私が寝起きであることはお構いなしに本日の授業が開始されそうだ。

 寝起きだと人間の脳の真の実力が発揮されるとでも思ってんの?

 新理論なの?


「先生、寝起きで頭が回りません」


 『とにかくちょっと待って欲しい』という気持ちを込め、そう伝える。

 伝われ!


「雷の魔法をくらうと目が覚めるらしい」


「『目が爆発する』の間違いじゃないの?」


 先生が冗談を言う。

 冗談でなければ洒落にならないので冗談だということにする。

 冗談でも怖い。

 おかげでしっかり目が覚めた。

 ・・・。

 今何時だろ?


「うーん、でも朝ごはん食べたいよ」


「もう昼」


 闘技場の疲れからか、私はかなり長い時間眠っていたらしい。


「あれ、ほんとに?

 それじゃあ、なおさら食べに行こうよー」


 遊んで欲しい猫のような視線で訴える。

 うるうる。

 これが効果あったのか、私は講義の前にご飯を食べることを許可された。


 




*****






「魔術の使用に関し、『収束』『放出』『制御』という3つの技能が重要になる」


「食事中っすけど」


 私がパスタをくるくるしていると、唐突に授業が始まる。

 何?

 ここでやんの?


「魔力を『収束』しコアを作成。

 コアを『制御』して形を整え、そして魔力を『放出』する。

 『収束』『放出』『制御』。

 この3つの技能が伴わないと、上位の魔術を使うことはできない」


 講義が難しい領域に突入する前に延期に持ち込もう。

 より論理性の高い言い訳を構築する必要がある。

 ・・・。

 こんなのでどうでしょうか?


「ノート持って来てないから後じゃだめ?」


「メモ紙あげる」


「用意いいなー、残念」


 ノムの用意周到さに私が観念すると、授業の続きが始まる。


「3つの能力を1つづつ詳しく説明する。

 まず『収束力』に関して。

 『収束力』は『コアにどれだけ多くの魔力を集めることできるか』ということに対応する。

 もちろん収束できる魔力量が多いほど威力が大きくなるので、収束力は魔術攻撃力に大きく影響する。

 上位の魔術を使うには、魔力を多量に収束する必要がある。

 でも、エレナみたいな魔術初心者が、自身の収束力を超過する魔力をコアに集めようしても、それ以上コアの魔力量は増えない。

 また、もしもそこで無理やり収束量を増やそうと無理をすると、コアの魔力が暴発してしまい非常に危険」


「そんなことはしません」


「でも魔法を使っていれば、次第に強くなっていくから大丈夫。

 次に『放出力』に関して。

 『放出力』は『収束した魔力を、どれだけ強く、遠くに、広く発射することができるか』ということに対応する。

 この能力も魔法威力に影響するし、また効果範囲にも強く影響する。

 放出力が高いと、同じ属性の魔術でもいろいろなバリエーションのものが使えるようになる。

 逆に放出力が低い場合、魔術を遠くで発動できず術者自身の近くで発動してしまい巻き添えを食らう形になる可能性があり危険。

 でも魔術を使っていれば次第に強くなっていくから大丈夫」


 休む間もなくノムが説明を続ける。


「最後に『制御力』に関して。

 『制御力』は『収束・放出をどれだけ自由に操作できるか』ということに対応する。

 例えば・・・。

 前も言ったけど、雷系の魔術を使うには制御の能力が高くないといけない」


「暴発して危険なんでしょ」


「危険なのもあるけど。

 上位の雷系魔術は制御が難しくて、敵に攻撃が当たらずに使い物にならない。

 魔力をムダに消費するだけになる。

 逆に制御力が高いと、様々なバリエーションの魔術が使えるようになる。

 制御力も魔術を使っていれば次第に強くなっていく」


 なるほど。


「つまり魔法をこれでもかっていうほど使え、ってことでいいの」


 やることは単純そうだ。


「そう。

 でも注意が必要なのは、『使用する魔術の属性によって3能力の成長スピードが異なる』ということ。

 例えば、炎の魔術は収束力が向上しやすい一方で制御力が向上しにくい。

 光の魔術は放出力が向上しやすい。

 満遍なく成長させたいなら、複数の属性の魔法を使っておく方がいい。

 3つの能力が伴ってきたら新しい魔法を教えるから」


「おおっ!

 それは楽しみかも」


 またまた、習得に苦労しそうだが。

 戦闘に有用な魔術が増えるのは素直にうれしい。


「今からは闘技場のエントリーや、武具店での買い物も全部エレナに任せる。

 だからまずはこの3つの能力を全部少しづつ強化してきて。

 ある程度強くなったかなと感じたら私に声をかけて。

 そうしたら、成長具合をチェックしたうえで次のステップに進むから。

 もちろん、わからないことがあればすぐに聞いてくれていい」


 昨日までの管理社会から一転、自由度が数次元上昇した。

 ノムの教育方針がよくわからん。

 

 白紙のメモ紙を見つめながら、パスタの最後の1本をすする。

 顔を上げると、『お前ちゃんと話聞いてたのか』みたいな顔をした先生と目が合った。






*****

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