Chapter2 魔力とエーテル (1)

 ノムが魔法を教えてくれるというので、荒野のような場所にでも連行される、のかと思ったら、宿に帰ってきました。

 やったね。


「これ」


 ノムは青色の書籍を、私に向けて突き出してきた。

 いぶかしみ、深い。 

 本を凝視。

 表紙には『魔導学概論』と書かれている。

 『概論』というのがよくわからないが。

 魔法というものを詳細に説明する内容に違いない。

 この書籍を愛読、熟読し、魔法に関する理解、興味、関心を深めておけ、ということなのだろう。


 本を差し出したまま完全停止したノム先生。

 私がアクションを取らなければ、イベントは進まない。

 両手を使って、至極丁寧に頂戴した。

 

 青の本。

 ほころびは少なく、丁重な扱いを受けてきたことが垣間見れる。

 実質量以上に重たく感じる、気がする。


 魔法に関する書籍。

 そういったのものに、今まで、あまり深く親しんだ覚えはない。

 興味なくペラペラとページをめくったことがある程度。


 さて。


 ノムがお勧めするほどの書籍。

 ここには、いったい、どのレベルの事柄が記述されているのであろうか。

 多大な期待を込め、私は表紙をめくった。


 すると・・・。

 真っ白なページが目に飛び込んできた。


 ・・・


 もう1ページめくってみるが、1ページ前とまったく同じ白。

 パラパラ〜っと送ってみるが、オブジェクトは1つも見当たらない。

 あれれ〜、おかしいぞ〜。


「はい!

 ノム大先生。

 この本、何も書かれていません。

 全ページ白紙です」

 

 私は左手を挙げて報告する。


「大丈夫、エレナが書く」


「やったー。

 らくがき帳ほしかったんだー。

 とりあえずノムの似顔絵から描こうかなー」


「私が教えたことをそのまま書いていけば、最終的に『魔導書』が出来上がる。

 こうでもしないとエレナは、『後で本読めばいいかー』とか考えて、人の話を聞かないだろうから」


 私のボケは美しくスルーされた。

 私、信頼されてないのね。

 まあ、あまり反論はできませんがね。


 訂正。

 『大事に大事に扱われた』、ではなく、『新品』でした。

 なるほど。


「でもさ。

 ノムの考えてることと、私の書いた内容が違ってきちゃうかも、だよ?」


 『魔導学概論』と銘打っておきながら、私がノムの言葉を誤解釈して記述すれば、著者(私)の信用がた落ちである。


「違ってもいい、エレナが理解できるように書けば」


「さようですか」


 まあ確かに。

 どうせこの本、私しか読まないですしね。

 その辺り、あまり気にしないようにしよう。

 文字が汚くても、表現適当でも、私がわかればおとがめなし。

 落書きし放題である。


 青の本に続き、ノムがペンとインクを渡してくれる。

 青色のペンはノムの私物。

 『ペンとインクは、後日、雑貨屋で自分で買っておくように』という言葉が添えられた。


「それじゃ。

 始める」


「はーい」


 本格的な魔術の講義が始まった。


「魔術の狭義の定義は、体内に蓄積された魔力を、エネルギーとして体外に放出する攻撃防衛手段、といえる。

 この体外に放出されたエネルギーをエーテルという」

 

 『狭義』?

 えっ、なんだって?

 『狭義』で思考が詰まって、その後の言葉を私の脳が拾おうとしなかったんですけど。


「先生、速すぎてメモが間に合いません」


 『とにかく一旦待ってくれ』、『もう一度言ってくれ』、『もう少しゆっくり言ってくれ』という複数の希望を一言に詰め込んだ。

 たぶん伝わらないと思われるが。


「別に、私が喋った内容、全部を書かなくていいから。

 エレナがわかるところだけを、エレナがわかりやすいように書けばいい」


 私はノートに『狭義』と書き込んだ。

 後でもう一回聞こう。

 『上司の発言を途中でさえぎってはいけない』。

 社会人の基本だ。


「で、続き。

 このとき、体内の『魔力』が『プレエーテル』という中間状態になり、その後『エーテル』となる」


 『魔力 → プレエーテル → エーテル』っと。

 とにもかくにも。

 キーとなる単語だけは聞き漏らすまい。

 これらの単語を後で調べれば良い。


 ・・・。


 ただ、これらの単語をどうやって調べるか。

 その方法も、後で調べよう。


「『プレエーテル』の状態ではエネルギーではあるけど攻撃可能なエネルギーではない。

 もちろん、体内にある状態の『魔力』もエネルギーだけど攻撃可能なエネルギーではない。

 エーテルに変換することで、初めて攻撃魔法となる」


「んじゃ、さっきのゴーレム戦で私が使った火の魔法もエーテルなの?」


 『攻撃可能』の辺りはよくわからないが、先ほどの死闘で私が発動した火の魔法のことが気になった。


「それは違う。

 火の魔法はプレエーテル変換法が違うの。

 エーテルはそのまま変換するイメージ。

 一方で火の魔法は、まずある程度プレエーテルを体外に蓄積した後に、『四元素変換』という別の変換操作を行うことで実現される」


 『四元素変換』?

 新キーワード。

 とりあえずメモだ。

 私はノートに『四元素変換』と書き込んだ。

 

 ここでノムが、この『四元素変換』の説明をしてくれる。


「この世界の魔法は、6つの属性に分類される。

 まず『エーテル(魔導術)』、それと相反する『アンチエーテル(封魔術)』の『二翼魔術』。

 『バースト(炎術)』、『レイ(光術)』、『ウインド(風術)』、『スパーク(雷術)』の四元素魔術。

 合わせて6つ。

 『プレエーテル』をその4つの属性に変換するから『四元素変換』」


「さっきの戦いで火の魔法を発動したときは、そんな変換やってないけど」


 身に覚えなし。

 死に物狂いで、『炎』をイメージしてやってみただけだ。

 『四元素変換!』という詠唱は、脳内ですらやっていない。

 

「変換方法の詳細は、現在の科学では解明されていない。

 私も現状、うまく説明できない。

 その属性の魔法の発動をイメージする、そのことだけで、変換は成功する」


 詳細はノムでもわからないらしい。

 ノムでもわからないことがあるのか。

 何か新鮮な気持ちになった。


「とにかく覚えておいてもらいたいこと。

 それは、『6つの属性のうち、『エーテル』の属性が基本になっている』、ということ。

 だから、今から『エーテル』の魔法を教える。

 バーストの魔法を発動する際に、『四元素変換』をやらないでおく、っていうだけだから。

 できる人には簡単にできる。

 できない人は一生できない。

 人によって得意な属性、不得意な属性というものがある」


 私は現状、火の魔法しか使えないので、自身がどの属性の魔法が得意なのかはわからない。

 では、ノム先生は何属性が得意なのか。


「ノムはどの属性が得意なの?」


「全部」


 『そりゃあどの魔法も最凶レベルだけど、その中で何が得意なのかって聞いてるの!』、と、『あー、そうですか』という2つの思考が脳内に同時に浮かぶ。

 私が、


「あー、そうですか」


とつぶやくと、ノムが続ける。


「言い換えれば、特出した属性はないとも言える」


 ご謙遜を。

 間違いなく全属性特出していらっしゃいますね。

 などど、脳内で嫌味を言ってみる。

 ・・・。

 それに引き換え『エレナは全属性特出していません』とかだったりしないよね。

 そうならば、うらむぜ神様。


「ちなみに、エレナの得意属性は『雷』」

 

 『雷』?


「なんでわかるのさ!

 ってか、私が雷属性得意ってわかってるなら、最初に教えてよ!」


 ならば、なぜ最初に火属性の魔法を教え、そして次にエーテル属性の魔法を教えようとしているのか?

 最初に雷の魔法を教えてくれていれば、先のゴーレム戦であれほどの恐怖を味わう必要はなかったのではあるまいか。

 そう思うと非常に腹立たしく、強い口調になってしまった。


「雷は難しい。

 魔力消費も大きいから、体内魔力量が少ない駆け出しのときは、1発発動することさえキツい。

 制御性も悪くて、術者の意図通りにエネルギーを操作できない。

 初心者には扱いにくい属性。

 ・・・。

 で。

 発動に失敗すると非常に危ない。

 発動できても、制御できないと危ない。

 エレナは、まだ封魔防壁も弱いから、さらに危ない。

 だからみんな、バーストや、エーテルから習得する。

 それらの属性に熟練してくれば、雷系の魔術も自由に使えるようになるから」


 私は、『雷系、非常に危ない』とノートに書き込んだ。

 ノムの『危ない』を翻訳すると『死』になる。

 ちなみに、ノムの『大丈夫』を翻訳すると、『死ぬことはないから大丈夫』になる。


「じゃあ早速。

 今から『エーテル変換』のコツを伝えるから」


 なにか話しが長くなりそうだ。

 それにしてもお腹がすいた。

 闘技場での戦闘のあと、ご飯を食べる暇さえ与えてもらえなかったのだった。


「先生!

 とりあえずお昼ご飯を食べてからでいいですか?

 お腹が減りました」


「私は減ってない」


「ノムは弁当食べたからじゃんか!」


 命がけの戦闘の合間に腹ごしらえをする青髪少女の映像がフラッシュバックされる。

 イラダチスゴイ。

 そんな私の言葉を無視するように、講師ノムによる、『エーテル変換』の解説が開始された。






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