第52話勇者の実力
新章35.勇者の実力
「はっ!!すげぇなこの薬。
おいおい、どうなってんだよ!!こいつ、さっきまでほぼ瀕死だっただろうが!なんで前よりパワーアップしてんだよ!おかしいだろ!!
「おい、ガキども。ゾラークの隊長たるこの俺を、散々馬鹿にしてくれたツケ。払ってもらうぜ?」
そんなお決まりのセリフと共に、バルトは足元に落ちていた棍棒を拾い上げると、ひと足飛びで数メートル離れた俺の目の前に立った。
「!?」
あっぶねぇ!!咄嗟に『流』で受け流さなきゃ、頭無くなるところだった……
その後もバルトの猛攻が続くも、なんとか全て避けきる。
そして一度距離を取るため、後ろに飛んで下がる。
「雷刃、大丈夫か!?」
声をかけると、壁に空いた人型の穴からひょっこりと金色の頭が出てくる。
「大丈夫ダ。マサこそ大丈夫か?」
「俺は平気だけど……あれをどうする気だ?」
「やることは変わらねぇヨ。ボコボコにするだけダ」
俺の心配をよそに、雷刃は準備運動をしながら余裕そうに語る。
「けど――」
「心配すんナ。雑魚が強化されたところで、俺にとっては誤差の
雷刃はそう宣言して胸を叩くと、自分の愛刀を引き抜いた。そして、剣についていたレバーを引くと、刀身が真っ2つに割れて銃口が姿を現す。
「雷光玉……」
雷刃がそうつぶやくと、銃口から光の弾が無数に出てきて辺りを囲う。
「なんだこれ。こんなもん痛くも痒くもねえぞ?」
「そりゃそうだロ。ただの照明だもん……ナ!!!」
雷刃が剣を虚空に向かって振ると、バルトの肩から血が噴き出す。
「は?なん……だよこれ!!」
「せっかくだから教えてやるヨ。俺のスキルは『傲慢』ダ。見えている範囲内なら任意の場所に攻撃が必ず当たる。つまり、俺の視界内なら全てが間合いダ」
そんなの反則だろ。ってかこいつ、こんなすごいスキル持っててなんで教えてくれなかったんだよ。
「逢魔流剣操作、
ものすごい勢いで雷刃がバルトに突進していき、斜めに2回斬り込む。
そこから展開されたのは、実に一方的な虐殺だった。
……否、雷刃にとっては殺すつもりもない遊びのようなものなのだろう。
俺も強くなってたつもりだったけど、今の雷刃とは多分比べ物にもならないだろう。それこそ、トヘトヘと闘っていた時のグリムと比べても遜色ない。
俺が圧倒的な力の差を感じていたバルトを、さらに圧倒的な力で蹂躙していく。薬で強化される前ですら傷付けることができなかったバルトの体から次々と血が噴き出していく。
「マサ!!そろそろトドメの準備しとけヨ!最後はお前に譲るからナ!!」
「ふざっけんな!!舐め腐りやがって……ぶっ殺してやるからな!!」
ちょっ!!いきなりそんなこと言われてもトドメって、なんの魔術なら効くのかすら分かんないんだけど!?
いや、強がって叫んでるけど、バルトのやつもうボロボロだな。立ってるのがやっとって感じだ。
「おら!!ダメ押し行くゾ!!」
雷刃が右手をバルトに向けてかざすと、辺り一体の空気が変わった。そして、雷刃の手元に
「ジャッジメント・トレール!!!」
詠唱と共に放たれた雷撃は、あたりに散らばっていた『雷光玉』へと吸い込まれていく。
そして、『雷光玉』がより一層強く輝いたかと思った瞬間、とある一点。バルトに向かって光が収束する。
重なった光の束は、第3者である俺には想像もできないほどの威力となってバルトの体を蝕んでいる……はずだ。見た感じは。
「禁忌級を使わないだけありがたいと思えよ……っと、マサ!!」
合図を受け、急いでメギドフォルンを引き抜き構えをとる。あとは、刀身に魔力を込めて解き放つだけだ。
「よしきた!!うぉぉぉぉお!!!光々刺突!!」
これまで何度もお世話になってきた『光々刺突』。
全力の突進と共に、光属性を込めた刃で相手を串刺しにする使い勝手のいい技だ。
「これで終わりだぁぁぁぁぁあ!!」
♦︎♦︎♦︎
数十分後……
はいどうも。完全に酔いが覚めた真宗くんです。
いやー。酔いが覚めてからというもの、バルトがおっかなくてしょうがない。よくあんなのに勝てたな。
内心ビクビクしながらもバルトを縛って拘束し、雷刃の連絡で駆けつけてくれた応援と共に残党を殲滅し、囚われていた隊員たちも無事に救出することができた。
ちなみに、助けられた隊員たちは、雷刃に忘れられていたとも知らず感謝のあまり泣き崩れていた。
「結局、あの薬ってなんだったんだ?」
「知らね。回収されて、化学班かどこかに提出されるだロ。重要なもんだったらそのうち知らさせると思うから、心配しなくても大丈夫ダ」
へー。化学班なんてあるのか。
まっ、とにかく――
「1件落着……だな」
……………………………………………………
To be continued
ヘタレ魔王の英雄烈伝! 雅敏一世 @masatosi-katasa
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