第51話共闘戦線



新章34.共闘戦線


「俺の至福のひと時を邪魔したんダ……覚悟はできてるよナ?」


 バルトを睨みつけ、何故かキレている雷刃の声が低く響く。

 ちょーーっとだけ心配してたんだけど、全然必要なかったみたいだな。さっきも、一瞬で複数人気絶させてたし。


「本当なら、マサを拉致した主犯格のお前は俺の手で直々に後悔させてやろうと思ったんだけド……ここはかわいい弟に花を持たせてやろうかナ」


 そんなことを言いながら、雷刃は俺を拘束している手足の縄を切ってくれた。

 ん?花を持たせてやるって……


「ちょっとまて!俺にやれってこと!?」


「そのつもりだぞ?お前ならあのおっさんくらいやれるだロ

?」


 『あのおっさんくらい』って言われてもな。


「すげーおっかないんだけど!!」


「おいテメェら。いい加減にしろよ?本人の前で好き勝手言いやがって!」


「ちょっ!」


 バルトがいきなり左手に持った棍棒で殴りかかってきた!

 ただでさえおっかないのに、額の青筋がより一層、面構えを凶悪にしている。

 迎え打つため、メギドフォルンを引き抜こうとして……


「あれっ!?無いんだけど!!」


 流石に素手で受け止めるわけにはいかないので、ひとまず避けに専念する。バルトの棍棒は1メートル近くある大きさが仇となってか、簡単に避けることができる。


「マサ!!」


 叫び声と共に、雷刃がメギドフォルンを投げ渡してくる。

 ってことは、ここに運び込まれる前に回収されてたのか。

やっべ。全然気づかなかった。ごめんよ。


「って、うぉあっ!!」


「オラオラ!息巻いといてその程度かよ!!」


 やばい!全然息つく暇もない!!なんであんなクソでかい棍棒をそんな軽々と振り回せるんだよ!!

 さっき避けるのは簡単って言ったけど、逆にいえば避けることしかできない。


「はぁっ!?」


 間の抜けたようなバルトの声とほぼ同時、バルトの周りを囲うように電流が走り、時を追うごとに光を増していく。

 その電流はやがて檻のような形へと変化する。


 まさかと思い、雷刃の方を見てみると、バルトに向かって左手をかざしているのが目に入ってきた。


「言っただロ?お膳立てするっテ。ほら、マサ!今がチャンスだゾ」

 

 ちょっとかわいそうな気もするが、背に腹は変えられない。別に真剣勝負じゃないんだ。命まで取ろうってわけでもないし、行動不能にするだけならこっちのが手っ取り早いか。


「よっし。じゃあいくぞー」


「おい、待て待て待て!!!お前には武士道とかはないのかよ!!」


「は?いきなり殴りかかって来ておいて、今更何言ってんだよ」


 そんなやりとりをしながら、電流の檻に走る。

 すると、電流の檻に触れるかどうかのところで電流は散り、丁度俺が通れるサイズの穴が開く。


 入った瞬間にバルトが殴りかかってくるが、『流』で受け流し、すぐさま攻めの体制に入る。

 流石に魔術を使うわけにはいかないので……


「逢魔流剣操術、乱切り」


 乱切りは左右から1回。それぞれ2回づつ切り込む技だ。逢魔流剣操術は、魔力は込めてないため魔術より威力は劣るが、その分魔力切れを気にせずに扱うことができる。


 一方バルトは、流石に棍棒で4方向からの攻撃は捌ききれなかったのか一撃もらってよろけている。

 いや、なんで峰打ちじゃないのによろけただけで傷ひとつついてないんだよ。おかしいだろ!


「いってーな」


「いやいや!!なんでそれだけで済むんだよ!」


「俺は頑丈だからな」


 切られてるのに血も出ないのは人間じゃない。もっと化け物じみた何かだ。

 待てよ?普通に攻撃しても通らないなら、魔術使っても大丈夫なんじゃないか?よし、1度試してみよう。

 なるべく弱くなるように意識しつつ、剣を回転させて魔力を溜め込む。


「百火繚乱!!」 


 魔術を放つ直前にジャンプしながら前蹴りをする事で、防がれないようにしたつもりなんだが、バルトは蹴りは無視して『百火繚乱』に集中してくる。

 やばい!防がれる!!……と、一瞬思ったが、防ごうとしたバルトの棍棒に電撃が走り、腕が後方に吹っ飛ぶ。


「防がせねぇヨ。バーカ」


「くそがぁっ!!」


 雷刃のアシストのお陰で、バルトに隙ができた。

 そのままガラ空きになった胴体に『百火繚乱』を叩き込む。これを耐えられたら流石に手加減はしてられないけど……


「うぐぁ」


 そんな俺の心配とは対照的に、バルトが血を吐きながらうずくまる。

 よかった。うまい具合に加減できたみたいだな。


「ほら。さっさと、さらった他のギルド隊員の居場所教えてお縄につけ」


「あっ、そっか。そう言う任務だったナ」


「お前、忘れてたのかよ……」

 

 こちらに近づいて来ながら、雷刃が呑気な事を言っている。任務の内容を忘れるとか、こいつ本当に勇者なのか?


「おまっ!なんだヨ、それ!!」


 突然、凄い剣幕で叫んだ雷刃の視線の先では、バルトが手に持った注射器を腕に刺そうとしていた。


「へっ。本来ならこんな事したくはなかったんだが……全部失うくらいだったら……1本でも使って残りは守り通すぜ」


 雷刃が止めに入ろうとするも、間に合わない。

 そして、注射器の中身を全て注射した


「うそ……だろ?」


……………………………………………………

To be continued

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