第50話その頃雷刃は……



新章33.その頃雷刃は……


雷刃が真宗の元へと駆けつける少し前



「よっし。これで全部カ」


 潜入成功。そして速攻で制圧完了!いやぁ、寝たふりしてまで危ないかけに出ただけはあったな。マサは本当に寝ちゃってたけど…


 10分くらいで全員倒せたけど、これ本当に俺が出る必要あったのか?どう考えても、ギルマスの考えすぎな気がするんだけどな……まあいいか、そのおかげでマサと会えた訳だし。


「せっかく会えたのに、はぐれちまったんだけどナ」


 しっかし、俺が連れてこられたのはどんなとこかなと、周りを見回したら、あらビックリめっちゃボロボロのバラックだな。

 もしかしたらマサもこんな辛気臭い場所に連れて行かれたのか?だとしたら許せないな。マサに手を出した奴らには死ぬより辛い間に合ってもらわないと……


「まあ、あえて連れ去られたところを助けて、マサに『兄ちゃんかっこいい!』って言ってもらう計画に差し支えはない事が唯一の救いだナ」


 幸い、武器は全て俺の手元にある。俺の愛刀だけでなく、真宗のメギドフォルンも持っていかれる前に回収できて本当によかった。

となれば、後は……


「『たまにはマサにいい所を見せちゃうぞ』作戦を決行するだけだナ!!」


 そう言ってガッツポーズをとる雷刃は、既にこの任務の本来の目的を完全に忘れ去っていた。

 任務の本来の目的を思い出すのは事が終わった後になるのだが、そんな事実をブラコン勇者の記憶から忘却された悲しき隊員たちは知るよしもないのだった。


♦︎♦︎♦︎


 そんなこんなでやる気を取り戻しだ俺は、バラックのシャッターを蹴破って外へ出る。もうかなり夜も更けてきたのか、キャバクラに入る前よりも随分と人が減ってるな。


 どこではぐれたのかもわからない現状、頼りになるのはマサの匂いだけ。別にあいつが匂うわけじゃなくて、俺がマサを思う気持ちから生み出した特技だ。


 しかし、思ったよりも時間を取られたな。個々は大した事なかったけど、数が多すぎる上に時間稼ぎに徹されたから手こずってしまった。


「すんすん」


 っと、ここの角は左か。

 それにしても、マサはしばらくみないうちに変わってたな。なんていうか、一皮剥けた感じがする。マサが話してくれた思い出話でも色々あったって言ってたしな。


 兄離れというやつなのだろうか……。マサは気づいてないだろうけど、愚痴みたいな思い出話してた時も嬉しそうな顔してた。

 けど、弟が兄離れをしたとて、兄も弟離れをするとは限らないのだ。


「つまり、俺はまだ寂しい!!」


 そんな思いを秘めて、マサの元へと急ぐ。

 匂いが強くなってきたし、もうそろそろ着きそうだ。


「この壁の向こうダ!!」 


 とあるバラックの前につくと、直感的にマサがここにいる事が分かった。

 よし今すぐ乗り込んで……いや、待てよ?これはベストタイミングまで待った方がいいんじゃないか?

 今乗り込んでマサがまだ寝てたりしてたら何のためにここまで頑張ってきたのか分からなくなる。


 よし決めた、マサの声が聞こえてきたら突入しよう!

 マサが「助けて」とか叫んでくれたら即刻突撃するんだけどな。久々に「お兄ちゃん」呼びされたりしたら張り切りすぎて壁とか壊しちゃうかも……


 そう考えた直後、中から叫び声が聞こえた。 


「助けてぇぇぇぇえ!!!お兄ぁぁぁぁぁあちゃん!!!」


 その瞬間、目の前の壁が砕け散った。スローモーションで飛び散る瓦礫を尻目に、自分の拳が前に出ていることに気づき、その壁を壊したのが自分だとすぐに理解できた。


 けど、どうしよう!この後のセリフとか一切考えてなかったんだけど!?と、とりあえず平然を装わないと……


「おっ、マサみっけ」


 と、その場を繋いでおき、余裕そうにピースサインをマサに向ける。ふっ、決まったな……


「マサ〜!お兄ちゃんに会いたくて叫んじゃったのカ!?しょうがないナぁ。ちょっと待ってろヨ?今すぐ片付けるからナ」


 我ながらかっこよすぎて困るセリフと共に、バラックの中にいた数名を片っ端から殴っていく。

 向こうは暗くて見えてないのか、特に抵抗もなく5、6人を伸せた。

 おっと、これは相当決まったんじゃないか?『お兄ちゃんカッコいい!』ってなる展開なんじゃないか!?

 期待を込めてマサの方を見ると、正座しながらお茶飲んでた。あれ?俺の目がおかしいのか?


「来るのおせぇよ。なんかあったのかと思ったじゃんか!」


 マサがお茶を飲み終わったかと思うと、今度はすごい剣幕で怒られてしまった。


「バーカ。俺がお前と莉愛を置いて死ぬわけないだロ?」


 安心させるために微笑みかけながら頭を撫でてやる。


「ちよ、やめろ!!恥ずかしいだろ!!」


 とは言いつつも、払い除けようとはしてこない。やっぱり兄離れなんてのは杞憂だったか。


「おい。俺のこと完全に忘れてないか?思いっきりぶん殴ってくれやがってよ」


 唯一、さっきの攻撃で気絶しなかったおっさんが、よろめきながら肩を掴んでくる。


「おい、おっさん。俺の至福のひと時を邪魔したんダ……覚悟はできてるよナ?」


……………………………………………………

To be continued

 

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