第49話その男『傲慢』につき



新章32.その男『傲慢』につき


俺こと大和真宗、初体験でございます。何がって?


……両手両足縛られてどこか分からない暗がりに転がされてるって状況のことですね。お酒を飲んだせいでハイになってるのか、恐怖心とかはない。あと、テンションがおかしい。お酒の力ってすげぇな。


で、現在の状況だけど……人の気配は5、6人。魔力の感じからして雷刃は近くにはいない。不幸中の幸いなのは口は塞がれていないため声は出せることだ。まあ、大声で叫んでも意味ないから塞がれてないんだろうけど。


しばらくするとシュッと何かを擦る音がして焦げ付く匂いと共に灯りがつく。


「よお。やっとお目覚めかい?」


ニヤけづらでそう言って近づいてきたのは金髪の大男だった。ランタンを携えたその男の額には大きな傷があり、こちらを嘲るような声色には神経を逆撫でされるような感覚があった。はっきりいうと不快。


「とりあえずここはどこなのか。そしてあんたは誰なのか教えてくれると助かる。」


「ほお、この状況でずいぶん余裕だな。いいぜ、その度胸に免じて教えてやるよ。ここは俺らゾラークのアジトで俺はリーダーのバルトだ。」


うん。全っ然分からないな。いや待て、ゾラークってどっかで聞いたことがある気が……。

あっ、店に着く前に雷刃が言ってた暴力団隊と同じ名前だ!


……ってことは一応、潜入するって目的は達成したのか?

縛られてるせいで何もできないけど。


「って、雷刃はどこだ!?」


「あ?金髪の方のガキか?そいつなら別の場所に隔離してある。へっ。自分より兄弟の心配とは……泣ける話じゃねえの。」


バルトが泣きまねをしているが俺が心配してるのはそこじゃない。


「あいつのことなんて全然これっぽっちも心配なんてしてないぞ?ただ死人が出てないか心配なだけで……。」


雷刃がそんな簡単にくたばるとは思えないしな。てか、雷刃がじいちゃん以外に負けてるとこなんて想像もできない。


「妙なこと言うガキだな。まぁいいか。こうしてめでたく罠にかかってくれたみたいだしな。」


転がされている俺の前にしゃがみ、顔を覗き込んできたバルトはそう言ってニヤリといやらしく笑う。


「……結局何が目的なんだよ。別に攫うならギルド隊員に固執する必要ないだろ。」


「必要あるんだなぁ。それが。ま、別にいいさ。馬車が来るまでの間、話し相手くらいにはなってやるよ。」


馬車?ってことはここからまだ移動するのか。

一体どこに連れて行く気なのか。とか

雷刃は結局どこなんだ。とか、聞きたいことは山ほどあるがさっきから上手い具合にはぐらかされていて教えてくれそうにない。


「なぁ、ちょっとお茶くれない?喉乾いちゃってさ。」


教えてくれそうにないので存分にくつろぐことにした。

なーに。そのうち雷刃が壁でもぶち破って助けに来てくれるだろ。


「それくらいなら別に構わないぜ。おい、誰かこいつに茶出してやりな。」


バルトが呼びかけると、遠くの方で足音がした。

どうやら本当にお茶を入れに行ってくれたらしい。


「なぁ。これだけ教えて欲しいんだけど、なんで俺らがギルドの隊員だってわかったんだ?」


「は?お前それマジで言ってんのか?こんな繁華街で堂々と武器携えてりゃ気付くに決まってんだろ。ギルドの名簿にお前らの名前あったし。」


あっ。完全に盲点だったわ。なんで二人揃って気づかなかったんだろ。ってか、やっぱ決めては雷刃が本名晒したことじゃねえか。


「ほら、茶を持ってきてやったぞ。」


「あ、ありがと。あちちっ。ふぅ。ふぅー。」


バルトからお茶を受け取り、熱さに驚いてこぼしそうになりながらもやっとの思いでお茶を飲む。以外と旨いなこのお茶。


「そもそも、なんでお前そんなに落ち着いてやがるんだ?普通こういう状況ってもうちょっとパニックになるもんじゃねえのか?」


お茶を飲んでくつろいでいると、流石に落ち着きすぎて不審に思われたのか、拉致した張本人とは思えない質問をしてきた。


「今はお酒のお陰でハイになってるからな。普段ならこうは行かない……と思うぞ。そんなことより、俺って拉致されてからどのくらいここにいるんだ?」


「あーっと、30分くらいか?」


ダメ元で聞いてみると、以外にも親切に答えてくれた。

あれ?こいつ悪い奴じゃないんじゃないか?ってそんなわけないか。


にしても、30分か……。となると……


「そろそろか。」


「は?何言って……」


「あんたさっきなんで俺がこんなに落ち着いてるのかって聞いたよな?理由は簡単だ。雷刃俺のにいちゃんが、俺のピンチに駆けつけないわけねぇんだよ。」


おそらく俺と同様に捕まっているであろう雷刃も30分あれば脱出できてるはずだ。で、脱出した雷刃は俺を探してこの街を徘徊してるはず。なら、俺がするべきことは一つしかない。


「すぅぅぅ。助けて!!!お兄ぁぁあちゃん!!!」


俺が叫んだのとほぼ同じタイミングで、轟音と共に先程まで何も見えなかった建物の中に月明かりがさす。


「おっ、マサみっけ。」


そして明かりの方を見ると、倒壊した壁の前に拳を突き出して立っている雷刃がこちらの方にピースサインを向けていた。


……こいつマジで壁をぶち破ってきやがった。

……………………………………………………

To be continued

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