第42話災害の爪痕
新章25.災害の爪痕
それが初めてだった。何がって?………き、キスのことだよ。突然の出来事すぎて、俺の思考は一周回って冷静だった。
だって初対面の美少女にいきなり愛の告白され、そのままの流れでキスだぞ?どこのラブコメ展開だよ。ジャンルが違うっての。
そんなことよりもやばい!!キスってこんな気持ちいいのかよ!!……何言ってんだ俺は?この状況でまともな思考ができる方がおかしいんだけど!!
「よっす!!ハイパーウルトラ超絶かっこいいクロスくんだよん。」
子供か!!
俺の頭がおかしくなる寸前、クロスがドアを蹴破るようにして上機嫌に入ってきた。が、ノリノリだったのも時間の問題だった。
俺たちに気づいたクロスは、一瞬にして状況を理解したらしく……正確には誤解なのだが、気まずそうに目を泳がせると、
「お、お邪魔しましたー。」
と言い残し、そっとドアを閉めて出て行こうとした。
「ぷはぁっ!待て待て待て!!誤解!誤解だから!!!」
快感に抗いながらもなんとか弁明すると、わかってくれたらしく、部屋の中に入ってきた。
「あっ、なーんだ。そういうことね。真宗くんが一方的に襲われてただけか。お楽しみ中かと思っちゃったよ。」
――――――――――――――――――――
執務室のドアから見て左側にあるクローゼットの中からどう考えても入らないだろってサイズの低めのテーブルと、椅子を三脚。クロスが引っ張り出してきて、座るように促してくる。
この部屋が、広さの割に物寂しいのはこのテーブルを置くためだったらしい。
「まずは説明を求む。これは一体どう言う状況だ?」
正面にクロス、横に謎の美少女という並びで座り、間髪入れずに話を切り出す。
「あーっと、その子に関しては直接聞いた方がいいと思うよ?
ひがみかよ!!待て、今こいつなんて言った?
「せ、セリカ?」
「そっか、この姿で会うのは初めてだったね。えへへ、真宗くんに会えたのが嬉しくて忘れちゃってた。」
セリカ?はそう言って、真っ直ぐ俺に向き直る。
「改めまして、暴食の勇者セリカです。
なるほど結婚ね。はいはい……
「はぁ!?けけけけ、結婚!?」
どうなってるんだ?いつそんな話を…。
この時、俺の脳内にとある記憶が呼び起こされる。
『今ここで俺の全てをお前に捧げる!!」
あっ、言ってますやん。めっちゃ恥ずいセリフをテンパって叫んでもうてますやん。
「もしかして、覚えて…ないの?」
驚きのあまり立ち上がり、そのまま固まっている俺をセリカが悲しそうな、寂しそうな目で見上げてくる。
やばい……なんか言わないと……。
「そう、だよね。やっぱり…私となんて嫌、だよね。」
そう言って、セリカは唇を噛んで俯く。その姿は、まるで捨てられた子犬のように悲壮感が漂っていて、勇者とは思えないほど小さく見えた。
しっかりしろ、大和真宗!!俺の萎え切らない態度で傷つけたんだ。言わなきゃいけないことがあるだろうが!!
「そんなことねえ!!……そんなことない。たしかに、あの時は場の勢いとか頭こんがらがっててよく考えもせずに決めちゃったけど……。だから全部なしなんて恥知らずな真似はしたくない。」
俺の言葉を受け、セリカの瞳に一縷の光が宿る。だが、まだ信じられないらしく表情は暗いままだ。
「それに、今全部思い出しても後悔なんて全くしてない。あのままじゃ全滅だっただろうしな。むしろ、君でよかったって安心してるくらいだ。」
「本当に……?」
「嘘でこんなこと言うと思うか?」
問いかけるように言うと、セリカが力無く首を振る。
よかった。そこは信用されてるみたいだな。
「でも、人を好きになるとかまだよくわかんないんだよ。ずっと離れ小島で暮らしてたせいでもあるんだけどさ。だから……。」
「だから?」
「だから、俺の覚悟が決まるまで婚約って形で……。まっててくれるか?」
セリカの顔が、信じられないといったものから段々と喜色へと変化していき……
「うん!!!!!」
その言葉を皮切りに、堪えきれないとばかりに抱きついてくる。
「へへへ。でも、あんまり待たせちゃ嫌だよ?」
近い!!セリカさん近い!けど、離れろって言うわけにもいかないし……。
「な、なるべく頑張る……。」
「ごほん!!い・つ・ま・で!!イチャついてるのかな?」
こめかみに青筋が浮かびそうな勢いで怒りをあらわにしたクロスが、指で机をリズムよく叩きながら、我慢の限界だと言わんばかりに言ってくる。
本来なら土下座ものだが、今回に限っては助け舟だ。
「ご、ごめん。ギルマス完全に蚊帳の外だったな。」
「本当だよ!まったく、目の前でイチャつかれるこっちの身にもなって欲しいもんだよ。」
椅子に座り直しながら話を戻そうとすると、クロスがイチャモンをつけてくる。が、こっちとしてはかなり大事な話だったし、多めに見て欲しいもんだ。
「はぁ、もういいよ。こっから重い話になるわけだし。」
そう言って佇まいを正すと、クロスの雰囲気が変わる。
「君らの初任務での被害は、君やグリムの尽力もあって
ほぼ?なんか引っかかる言い方だな。
「で、ここからが本題。……シルヴァが行方不明なんだ。イナちゃんを庇ってね。」
「……へぇ。」
「あれっ!?なんかもうちょっと、嘘だろ!?みたいな反応になると思ってたのに。」
呑気に鼻をほじりながら返すと、クロスが信じられないと言った顔で座ったままずっこける。
「そんなこと言われてもな。あいつがそんな簡単にくたばるとは思えないし、行方不明って断言したってことは生きてる可能性のが高いってことだろ?」
クロスはあっけに取られたような顔をしているが、これが俺の本音だ。あの何考えてるかわかんないシルヴァが、無策で自分を犠牲にしたとは思えない。ロリコンだしな。
「この短い間に、成長したんだね。」
クロスは、頭に手を当てながらも、どことなく嬉しそうな顔だ。ちなみにセリカは我関せずで鼻歌を歌いながら横に揺れている。
「もとがクズすぎただけだ。それに、1番辛いのは直接現場を見ていない俺じゃなくてイナだろ?俺は、いつか連れ戻すって割り切れるけど、庇われたイナはそうじゃないだろ。」
「そう…だね。けど、イナちゃんを励ましに行く前に、寄るところがあるだろ?」
「寄るところ?」
「目が覚めたら、来させるように言われてるんだよ。」
――――――――――――――――――――
執務室までと同様、杖を使いこなしながら廊下を歩く。自分の部屋はではない。もちろんイナたちの部屋でもなく、寮内でも初めてくる俺たちの部屋の反対側。とある一室を目指してゆったりと歩いていく。
セリカは気を利かせて席を外してくれている。
そうまでしてくれているのは、今から俺が会う相手と俺の関係を知っているからだろう。いや、少し前にセリカが切れたからってのもあるのかもな。
なんにせよ、気は進まないものの約束してしまったからには行かざるおえない。
「ここ、か?」
202号室。
ギルマスに教えてもらった部屋番号と同じ数字が書いてあるドアの前にようやく辿り着く。軽く2回ほどノックをすると。気だるそうな声で「入っていいぞ」と返事が返ってくる。
「よっ。約束通りきてやったぜ。……リズ。」
……………………………………………………
To be continued
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