第41話はじめまして愛しています。
新章24.はじめまして愛しています。
にしても、あれだけ居座ってたくせに、ピンチになったら割とあっさり帰っていったな。あの野郎。
でも、何はともあれ……。
「終わった…んだよな?」
「ああ。混沌龍は去った。どこに行ったかまではわからんが、ここはもう安全だろう。」
そっ…か。助かった……の…か………。
安堵感と疲労感で、俺がこれ以上意識を保てるはずもなく、そのまま前のめりにぶっ倒れた。
――――――――――――――――――――
真宗たちの、1日にも満たない長き戦いが幕を下ろした。
波乱の初任務はアクシデントこそあったものの、誰一人として犠牲者を出さず、真宗たちの完全勝利……のはずだった。
戦いが終わり、数時間後。時刻は、17の刻(午後5時)に差し掛かっており、空は鮮やかに赤く染まっている。
一行は、トヘトヘによって破壊された村の復興作業がひと段落し、ちょうどイナルナと合流したところだった。
「まったく!だらしないわね。こんな簡単に気絶するなんて。」
「……イナ、ここに来るまで心配で…挙動不審だった。」
「なっ!!そ、そんなわけないでしょう!?あれよ!避難誘導で疲れてたのよ!!」
「お前ら、あんま騒いで真宗起こすなよ?すげえ頑張ってたんだから。」
その頃には既に、いつものやりとりができるほど全員が落ち着きを取り戻しており、村には戦勝ムードすら漂っていた。故に、誰も気が付かなかった。
否。この場合、気づかなかった者たちに落ち度はない。それほどに、刺客の気配の隠し方が巧かったのだ。実際、シルヴァはおろか、グリムでさえ接近されるまで気づかなかった。
「あれ?今何か蹴ったかしら?」
瓦礫を一輪車に積み、運んでいたイナの足元に柔らかい感触があった。一度一輪車を置き、下を見てみると何やらゼリーのようなものがある。
「あら?何かしら……スライム?」
目を凝らしてよく見てみると、顔のような模様がついていて、つぶらな瞳がイナを見つめてくる。
「何よ。ちょっと可愛いじゃない。」
イナが手を伸ばそうとした瞬間、スライムもどきの模様が変わり、恐ろしい顔へと変貌した。見た目だけではなく、その気配までもが先程までとはまったく異なる。
「わわっ!」
「カラダ……ヨコセ……。」
最初の愛らしい見た目からは想像もできないほど、野太い声でうめきながらスライムもどきがイナに迫り来る!
「イナ!!」
異変に気づき、なんとか間に合ったシルヴァがイナを突き飛ばして庇うが、そんなことをすれば標的は当然シルヴァに向きスライムもどきが牙を剥く。
そして、イナを庇ったことでバランスを崩したシルヴァにかわせすはずもない。顔面にスライムもどきの突進がもろに直撃し、口の中に入ってくると同時にシルヴァの意識は遠のいていく。
(くそっ!こりゃ思ったよりやばいかもな…意識…持ってかれる……。)
「シルヴァ!?」
起き上がったイナが叫ぶが、その声ももうシルヴァにはほとんど届かない。
「こっちにくるな!!」
駆け寄ろうとしたところを怒鳴りつけられ、イナが驚いて少し肩を震わせる。
「いいか?グリム先輩には、しばらく戻れなくなると伝えてくれ。絶対戻るから安心してくれともだ。あと…なんか言っておくことは……。
あっ、これは言っとかなきゃな。イナそれにルナと真宗も……1週間と少しの間だったけど、楽しかったぜ。お前たちといた時間。こんな別れ方になっちまってすまない。
……元気でな。」
そう言って、仲間たちを危険から遠ざけるべくシルヴァは森へ向かって走り出す。人知れず、振り返らず、遠のく意識の中で再開を願いながら……。
――――――――――――――――――――
「ん…どこだここ…」
目が覚めたとき、目の前にあったのは見知らぬ天井だった。
丁寧にベッドの上に寝かされ、横にはよく見るフルーツ盛りが置いてある。
全身には殴りつけるような痛みがあることから、死んだ訳ではなさそうだ。よかった。婚約したその日に死ぬとか、マジでシャレにならないからな。
起き上がってフルーツを食べようと手を伸ばしたところで、フルーツの籠の下に紙が挟まっていることに気づいた。
手紙だ。
「なになに?起きたら執務室まで来てちょ。まってるからね。んーっま?(キスマーク)これ書いたの絶対クロスだろ。」
中身は、逆にどうやったら手紙だけでここまで存在感をアピールできるのか気になるくらい個性的な文章だった。
「しゃーない。痛む体に鞭打って行きますか。」
怪我人を歩かせるなっての。とはいえ、ご丁寧にサイドテーブルに杖まで掛けてあったら、無視した時の言い訳も立たない。
よろけながらも、慣れない杖を使って執務室になんとかたどり着く。
いつものようにノックをして部屋に入ったものの、その先の光景はいつもとはかけ離れていた。
クロスがいつも座っている机の奥にある窓が空いており、窓枠に人影がある。
夕日を反射し輝く薄緑色の髪の毛すらっと長い手足をギルドの制服に包んでおり、顔は絶句するほど美しい。
ただ、風に揺られながら歌っている鼻歌がとてつもなく音痴で、全てを台無しにしている。
ドアのところで呆然と見とれていると、こちらに気づき近づいてきた。
そして、俺の前に立ち柔らかく微笑みながら俺の頬に触れ、囁くように言った。
「愛しています。今までも、これからも。君だけをずっと。」
初めて会った美少女に突然愛を囁かれる。
夢のような出来事だが、唇と唇が触れ合うこの感触が夢ではないと告げていた。
……………………………………………………
To be continued
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