第40話『怠惰』なる助っ人



新章23.『怠惰』なる助っ人


「まったく。おせえんだよ。もうちょっとで手遅れになるところだったじゃんか。」


グリムの遅すぎる登場に、ぼやかずにはいられなかった。

実際、あと数秒でもおくれていれば俺はおろか、後ろのセリカたちまでまとめて消し飛んでいただろう。


「おい貴様。俺に対してタメ口とはいい度胸だな。」


そこかよ!!今ツッコむところそこかよ!!いや、こういうやつだったなそういえば。


「だが…」


その時、信じられないことが起こった。グリムが俺の頭に手を置き、優しく微笑みかけてきたのだ。


「よくやった。初任務でこの規模の災害。犠牲者が一人も出ていないのは紛れもなく貴様のおかげだ。」


俺は悪い夢でも見ているんだろうか?だってグリムだぞ?入隊初日にボコボコにしてくれたあのグリムがだぞ?


「しかし!!まだまだ爪が甘い。一流たるもの人的被害だけでなく、物的被害まで考慮に入れなければならない。


そもそも、セリカだけならまだしもシルヴァまでついていながら何たる不始末か。」


おいこのおっさん今、セリカだけならまだしもって言ったよな?あいつどんだけ信用されてないんだよ…。

当の本人をチラッと見てみると、こちらに気づき小さく手を振っている。


ちくしょう。ちょっとかわいいのがムカつく。


「はぁ。小言は帰ってからたっぷりと言わせてもらうとしよう。今はこいつを倒すのが先決だ。」


頭を思いっきりぶん殴られて気絶していたトヘトヘが起き上がり、猛々しい咆哮を上げる。


「ほう。俺に喧嘩を売るとは……。」


そう言って、グリムが飛び出したのを皮切りに、激闘が始まるのだった。


――――――――――――――――――――


『大罪系スキル』と呼ばれるものがある。全スキルの頂点に君臨し、他のスキルとは一線を画す権能を持っている。


グリムの持つ、「怠惰」のスキルもそのうちの一つで、肝心の権能は単純に言えば自動回避。外界の全ての現象に対し、脊髄反射で体が勝手に対応してくれるというものだ。


一見すると、無敵なのでは?と、錯覚してしまうほど強力なスキルだが、一つ欠点がある。のだ。


グリムはこの重大すぎる欠点を、とある方法で解決した。

イルカという生き物は、常に片方づつ睡眠をとることによって起きたまま睡眠をとっている。


同じことを人の身でやってのけた。それにより、グリムは怠惰という癖のあるスキルを常時発動させている。


これこそが、グリムが歴代最強の勇者と呼ばれている所以なのだ。現状、グリム以上にスキルを使いこなしているものはいない。


「この俺に、単調な攻撃とは……。所詮はやはり獣だな。」


トヘトヘも本能的に真宗やリズよりも格上だと悟ったのか、真宗達ならば即死は免れないような猛攻を仕掛けているが、グリムはいとも簡単にかわし、逆に反撃に転じている。


「すっげぇ。」


思わず真宗がそうこぼしてしまうほどに、その姿は流麗。

そして、リズでさえ傷ひとつつけられなかったトヘトヘに、ただの斬撃でダメージを与えている。


斧の2倍という一体何を切るんだというほどの刃渡り。そして、グリムの身長と大差ないほど長い大剣からナイフと同速で斬撃が繰り出され、圧倒的だったトヘトヘをさらに圧倒的な力で蹂躙していく。


「ロックショット。」


入隊試験の時、真宗に対して使おうとした魔法。大地属性の初級魔法に過ぎないが、グリムの膨大な魔力から繰り出されれば、トヘトヘの体すら容易く貫く岩の塊となる。


それこそ、これが自分に向けられていたらと、真宗が身震いしたほどその威力は高かった。


桁違いの強さ。それ故にグリムは歴代最強の勇者足りうるのだ。そして、今早々に決着の時が訪れる。真宗達が少しづつ蓄積させてきた疲労。そしてダメージが今、グリムにバトンが渡されたことによって身を結ぶ。


「では、そろそろ幕引きとしよう。」


瞬間、グリムの全身に魔力が迸り、明らかにこれまでとは違った雰囲気を纏う。


「グランドキャニオン。」


詠唱た同時にトヘトヘのいる地面が割れて、巨大な谷が出現する。ただ、発動した魔法はトヘトヘが飛び立ったことにより、その効果を発揮することはなかった。


なんとも締まらない雰囲気だが、真宗たちの短くて長い初任務は、こうして幕を下ろしたのだった。


「ふん。次に会った時は覚えておけよ?」


「それ、負けたやつのセリフだと思うんだけど…。」


……………………………………………………

To be continued


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