第33話それじゃあ張り切って初任務…行ってみよう!
新章16.それじゃあ張り切って初任務…行ってみよう!
とある店の
東共風で落ち着た雰囲気の店内には串揚げの油の香りが漂っているが、上等な油を使っているのかむせかえるような油っこさは感じられず、食欲を掻き立てる。
だがしかし、それを補って余りあるのが、この串揚げをこれでもかと皿に積み上げ幸せそうな顔をしながら無言で胃の中に流し込んでいる男。流し込んでいると言っても、一本一本味わって食べている。
ただ、飲み込んだ後にもう一本を口に入れる速度が尋常じゃないためとんでもない速さで食べているように見えるだけだ。
リズがこんな感想を抱いて冷静に状況分析をしているのはただの現実逃避に他ならない。何故なら、この串揚げを食べている男のことを今の今まで考えていたからだ。
ほとほと、自分の間の悪さに嫌気が差す。ついでにこの男、真宗に対しても嫌気が差す思いだった。…完全に八つ当たりだが。何故、数ある店の中からこの店を選んでしまったのか。何も考えず、店を選んだ自分が憎らしい。
「七光り野郎!なんでここに居やがる!!」
「もごもごもご!!」
「何言ってるか聞こえねぇよ!!飲み込んでからしゃべれ!!」
思わずツッコミを入れると、真宗はこちらに手のひらを向けモゴモゴと急いで口を動かし始めた。
「ごくん。っはあ。いつどこでご飯を食べるかなんて俺の自由だろ?!なんなら、俺のが先にいたし。とにかくお前に文句を言われる筋合いはない!」
正論である。これ以上ないほどに正論である。だが、正論だからこそ余計にリズをイラつかせる。しかし、こんなやりとりも悪くないと、心のどこかで思い始めている自分もいて…
それを否定したくて、余計に真宗への態度は悪くなり、苛立ちは募っていく。いや、それでいいではないか。お互いに嫌い合っていられればこれ以上関わりあいにもならない。
「けっ!てめぇが居た店なんてマジのマジで死んでもお断りだっての!じゃあな。」
ならばこそ、こうして悪態をつき嫌われ役を買ってでも真宗を避けるのであった。それが自分の弱さ故だと自分でもわかっていながら…。
――――――――――――――――――――
「なんだったんだよ。あいつ。」
せっかく美味い串揚げ屋を見つけて至福のひと時だったのに。そもそも、なんであいつに嫌われてるのかが謎だ。
俺、なんかしたっけ?……………ないな。少なくとも俺の記憶の中じゃ、あいつとで初めて会ったのは間違いなく入隊試験の時だ。
ま、そのうちわかるだろ。てか、わかる気がする。なんとなくだけど。
「さて、気を取り直して。冷める前に食べちゃうか。」
けど、なんか引っかかる。あいつとは……いや。多分気のせいだろう。
――――――――――――――――――――
時は少し経ち、初任務当日の朝……。
ギルドからかなり離れた公都の郊外。俺たち一向はそこにある馬車の待合所で、馬車待ちをしていた。と言っても、時間は決まっているのですぐにくるだろう。
「よしっ。全員いるな。」
一応、監督役らしいシルヴァが人数を指差し確認しているが、別に確認する程の人数じゃないだろうに。
「おっ、ちょうど馬車が来たな。」
へえ。あれが馬車か。知っては居たけど、実物は初めて見たな。それにしても、シルヴァ以外のメンツが静かなのが気になる。ルナとセリカは別に気にしてないが、問題はリズとイナだ。こいつらは絶対に騒ぎ出すと思ってたのに…。
「イナ。お前どうしたんだ?体調でも悪いのか?」
「う、うるさいわよっ!任務っていうのが初めてだから緊張してるの!!あと、こっち見ないで。」
あっれー?俺なんかしたか?何か傷つけるようなことしたんなら言って欲しいんだけど。まあ、余計な詮索は地雷になりそうだしやめておこう。そのうち忘れていつも通りになるだろ。なんせ…
「イナは馬鹿だしな。」
「な、何ですって!?ちょっと真宗!もう一回行ってみなさい!ぶんなぐってあげるから!!」
やばっ。完全にやらかした!思わず口に出しちまった。
…そのあと、なんとかして宥めたものの、イナの機嫌が治るのは目的地に着く直前だった。
さて、一難ありつつもぞろぞろと馬車に乗り込む。馬車の中は外から見たイメージとは違い意外にも広く、4人がけほどの横長な椅子が2つ用意されていた。
御者側には、右から順に俺、シルヴァ、リズ。反対側には、俺の正面にセリカ。その隣に未だふくれっつらのイナ、そしてルナと並んでいる。
広いと言ったが、それは見た目よりはという話で、いざ座ってみると結構キツキツで、正面の相手と膝がつきそうなほどだった。
「なあ、セリカさんはやっぱ任務と結構こなしてたりすんの?」
「セリカでいいよ。真宗くん。えっと、そうだね。グリム先輩とかは結構なベテランだけど、私はまだ勇者になって日も浅いから…。」
そんな調子で世間話をしつつ、目的地まで辿り着くのはあっという間だった。
そして、波乱の初任務の幕が上がる。思えば、この時からすでに嫌な予感がしていたのだ。けど、ここまでのことが起こるとは思っていなかった。
この時の胸騒ぎを大丈夫だ、気のせいだと切り捨てたことを、俺は生涯において後悔することになる。
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To be continued
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