第32話それぞれの準備

新章15.それぞれの準備


だった一言で、場の空気が凍りついた。もうここまで来ると一種の才能だよな。


「冗談で言ってる訳じゃないよな?どう言うことだ。」


「ん?そのままの意味だよ。君が魔術を使える回数は残り10回。少なくとも初任務の時はそれだけだと思っといてね?」


「待て待て待て!!いきなりすぎるし、言ってる意味がわからない!後10回?本当だとして、そもそもなんでお前にそんなことわかるんだよ!」


本当に意味がわからない。何言ってるんだこいつは。そんな考えが顔に出ていたのか、クロスは軽くため息をついた後、詳しく説明し始めた。


「言ったでしょ?あの時の修行は君の体質とか適性とかを調べる意味もあったんだよ。で、その時わかったのさ。君は消費した魔力が回復しない。正確には回復してないんじゃないかって錯覚するくらい回復が遅いんだよ。」


「嘘だろ?じゃあ、あの時のことはどう説明するんだよ!風霊峰で魔力ぶっ放して倒れた時は!!」


「嘘でこんなこと言う訳ないじゃないか。それに、あの時はヴェストが魔力を分けてたんだよ。あの後ヴェストの分身が消滅したのはそれが理由だよ?


だから、初任務の時は魔術の使用回数に気をつけてね?真宗くん。あっ、そう言えば忘れてたけど、初任務の日程は明日だから。それまでに準備しといてねん。」


「つまり、あの時ヴェストが消えたのは…」


「そ。真宗くんのせい。」


空気を読んでてくれたのか、クロスが話を締めくくるまで誰一人として口を出すことはなかった。多分、リズだけは興味がなかっただけだけろうけど。今まで欠伸して「帰りてえ」

って顔してるし。


とにかくそんなこんなで、重い空気を残したまま招集はお開きとなったのだった。


――――――――――――――――――――


「あと10回か……。」


あの後、ご飯を食べる気にもなれず、早々に部屋に戻った俺は無力感からベットに仰向けに寝っ転がりぼーっと天井を見上げていた。


正直かなりショックで、今は何もしたくない。イナルナは何か言いたげだったが、シルヴァが言い聞かせてくれたのか問い詰めてくるわけでもなく、


「あんまり思い詰めるんじゃないわよ?」


「……いつでも……相談…のるから。」


とだけ言い残して部屋に帰っていった。ほんと、気配りできるなら普段からしてくれると俺の苦労ももうちょっと減るんだけどな。


クロス曰く、普通の人ならば数値にして1日1000ほど回復するところ、俺は3程度しか回復しないらしい。3はないだろ3は。俺は元の魔力量が多いらしいから10回程度使えるが、人生で1、2回ほどしか魔法が使えないケースもあるらしい。


けど、それよりもショックだったのが…


「俺のせいだったってのかよ…。」


ヴェストが突然いなくなった。その原因が俺だと言う事実は、意外にも心に深く刺さる。ヴェストは里の外に出て初めてできた友達……みたいなものだ。向こうがどう思ってるか知らないし、聞く手段も今はないんだけど…。


「ええい!いつまでもウダウダと落ち込んでてもしょーがないだろ!とにかく、今は目先のことに集中しないと。」


そう決心した俺は、だんだんと腹が減ってきたのを感じ、気晴らしに何か食べようかとギルドから少し行ったところにある商店街に向けて足を運ぶのだった。


――――――――――――――――――――


真宗が落ち込んでいる。今までは悩みとは縁遠いやつだと思っていたのに、意外とナイーブな部分もあったのね。


あたしたちにできることは何もないし、今は見守るしかないのだけれど、真宗が元気がないとなんとなくもどかしいのよね。なんでかしら。


「真宗。大丈夫かしらね。」


何の気なしに、ルナに問いかけてみる。


「……イナ。…さっきからそればっかり。……好きなの?」


「ばっ!!そんなわけないじゃない!あんなデリカシーも何もないヘタレなんて好きになる余地がないわ!!」


ルナがジト目で見てくるけれど、べつにやましいことなんて何もないんだからね!!


「そ、そんなことよりも、明後日に備えて早く寝なきゃね!おやすみなさい!」


「……イナ。…まだお昼…。」


ルナが何か言っているけれど、気にせず寝るとするわ。


それにしても暑いわね。熱でもあるのかしら…。


――――――――――――――――――――


「七光り野郎と一緒に初任務ってか、ふざけんな。」


公都のとある商店街にて、赤髪の男。リズ=インスグレイドは荒れていた。自分の父親失踪の原因となった男と仲良しこよしなど冗談じゃない。


「なんにも知らねえくせに、こっちの事情にずけずけと、もう関わりたくもなかったぜ。」


けど、不思議と憎めない。リズの中にはそんな心があり、自分でもそれを受け入れなくて余計に真宗に対して怒りが募る。


そんなモヤモヤを抱えながらも、リズは目についた店に昼ごはんを食べようと入る。


その先に、何が待っているかも知らないままに。


……………………………………………………

To be continued

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