第31話はじめてのにんむ

新章14.はじめてのにんむ


それは、久しぶりの爽やかな朝。いつもなら二度寝するところだが、睡眠自体が2週間ぶりなせいか、素晴らしく目覚めがいい。清々しい気分だ。


「起きた!朝だ!しゅっこーだー!!」


朝の心地よさにテンションが爆上がりし、思わず叫びながら飛び起きてしまった。どこに出向するのかは俺にもわからん。けどまあいいか、どーせ誰かが見ているわけじゃないんだし。


「よお真宗。朝から元気だな。」


「うわぁっ!シルヴァいたのかよ!って、このやりとりちょっと前にもやったな!お前少しは学べよな…。」


まーた、恥ずかしいとこを見られた。なんでこいつは毎回音もなく俺の部屋の扉にもたれかかってんのかねぇ。


「そのセリフはそっくりお返しするぜ、ちっとも学ばない真宗くんよ。」


「で、何の用だよ。朝の心地いい時間を邪魔したんだ。しょうもない用事だったらどうなるかわかってんだよな?」


睨みを効かせながら用件を聞くと、シルヴァは慌てるでもなくさらに笑みを深めた。


「聞いて驚け、ギルマスからの伝言だ。初任務についての説明をするからイナルナも連れて来いってな。ついでに俺も呼ばれた。」


またかよ。クロスが絡むと面倒なことになるから嫌なんだけどな…。けど、無視はできないし行くしかないか。


「はぁ、りょーかい。んじゃ、飯食ったら行くか。」


「一応、今すぐ来いって言われたんだけどな。まあいいか。飯くらい。」


それじゃあこちらもまた、5日ぶりのご飯にするとしますかね!


――――――――――――――――――――――――


さて、ルナがまた寝ぼけて食べられないものを食べようとして大騒ぎになった以外は特に何もない平和な朝食をとり終えた俺たちは、もう何度目かもわからないクロスの執務室に向けて廊下を歩いていた。が、


「ちょ、ちょっと緊張してきたわね。」


イナが唐突に変なことを言い出した。


「何言ってんだよ。別に緊張するような相手じゃないだろ。」


「緊張するわよ!相手はギルドマスターなのよ?!下手なこと言ったら比喩じゃなく首が飛ぶわ……。」


そんなことあるわけないと言おうとしたが、認証式でグリムが軽々と吹っ飛んでたのを見ると否定はできないな。やるかやらないかは別として、少なくともその気になれば可能ではあるだろう。


「まあそんなに気負わなくていいと思うぜ。イナちゃん。ギルマスは割と…うん割と寛大な人だからな。多分大丈夫だよ。」


「フォローしてるようでフォローしきれてねえし、それ余計に不安になるだけだろ。あと、ついででギルマスがかわいそうだろ。」


と言いつつ俺もついで扱いしてるんだが、そのことからは俺のクロスに対する恨みの表れだと思ってほしい。あの地獄のような2週間を俺は絶対的に忘れたりしない。


「おっと、噂をすればだな。着いたぜ。ここがギルマスの執務室。イナちゃんたちは初めてか。」


シルヴァの問いかけにイナルナが息ぴったりにコクコクと頷く。この調子だと、いつまで経っても入ろうとしなそうだな。しょうがない。ここは俺が一肌脱ぐとするか。


あたふたしているイナルナを尻目に、迷いなく執務室のドアをノックし、勢いよく扉を開ける。


しかし、その先の展開は俺が想像していたものとは少し違った。


「よお。マジのマジで久々だなあ。七光り野郎。また会えて嬉しいぜ。」


まったく歓迎の気配が感じられない歓迎の挨拶。そして、独特な口調と呼び方には聞き覚えがある。


「……リズ。」


「やあやあ、これでみんな揃ったね〜。にしても真宗くんたちおっそーい。2待っててくれたんだからね?」


しばらく睨み合いになりそうな雰囲気だったが、そんな緊迫した場の雰囲気などものともせず、クロスが空気の読めない発言をしている。


けど、今回ばかりは正直助かった。こいつとマトモに話ができる気はあんまりしないしな。


「って、2人?」


クロスの発言が引っかかり、ぐるりと室内を見回してみると、部屋の隅の方に緑色の髪の頭が見えた。


「セリカ。いつまでそんなとこに隠れてるのさ。人が多くて緊張してるのは分かるけど、君も勇者なんだから。挨拶くらいしないと。」


その頭は、クロスに呼びかけられビクッとした後、ゆっくりと立ち上がる。


入隊認証式で見た顔だ。透き通るような緑の髪と目。そして、ぽっちゃりした体型。えーっと。確か…


「ぼ、暴食の勇者をやっています。セリカです。よろしくお願いします。」


「そっか、俺は真宗。よろしく。」


そう言って手を差し出すと、またビクッとした後おずおずと握り返してくれた。まあ、変だけどいい人みたいだな。


「さて、全員揃ったことだし任務について説明させてもらうね。」


「って、いきなりだな。」


「だーれかさんたちが遅れてきたせいで、時間が押してるの。」


ぐっ、そう言われると何も言い返せない。けどしょうがなくない?ご飯食べる時間なかったんだもん。


「今回は、ちょっと訳ありでね。一見ただのゴブリンの討伐依頼なんだけど、依頼主が引っかかるんだよ。本当なら真宗くんたちとリズくんで行ってもらおうと思ってたんだけど、流石に心配だからさ。


依頼の場所も、最近変な噂を聞くし、シルヴァとセリカ。勇者と勇者補佐がいれば問題ないと思ってさ。」


「シルヴァお前勇者補佐だったのか。」


話を遮ってしまったので、クロスがムッとした顔で見てくるが、こればかりは聞き流す訳にはいかない。


「そうだぜ?一応偉いんだよ?俺。」


だって、


「見えねえー!!お前ずっと暇そうにしてるじゃん!」


「ちょ、お前!本当失礼だな!今はお前の監督って言う大事な任務中なんだよ!!暇じゃねえの!!」


「はいそこ!もう時間があんまないからそこまで!!まったく、すぐ話が逸れる。任務内容はさっき言った通り。ゴブリンの討伐。ただそれだけ。


20体くらい討伐してくれればそれでいいからね?くれぐれも生態系を破壊するような真似はしないように。」 


ん?今なんか物騒な単語が聞こえなかったか?生態系が破壊されるような場合があるの?えっ、やだ怖い。


「質問は…なさそうだね。では!今回の招集は以上。おつかれ様。もう帰っていいよ。」


「はあ?んだよギルマス。散々待たせといて用件だけ言ったらはいさよならってか。そりゃねえだろ。」


リズが食ってかかるが、正直無理もないだろう。てか、俺も悪いし。


「それ以上ギルマスに近づかないで。」


驚きだったのは、さっきまで沈黙を貫き通していたセリカが、動いたことだ。あんなにおどおどしてたのに。


「はいはい、喧嘩しない。セリカありがと。けど今回は僕の態度も悪かった。そうだよね。待っててもらったのに今のはちょっと酷かったよね。」


しかし、それを仲裁したのもクロスだった。


「わ、わかってくれりゃあいいんだよ。俺もいきなり怒鳴って悪かったな。」


意外にも、クロスになだめられあっさりとリズが引き下がったが、それだけセリカの行動が意外だったんだろう。

あれは、殺意にも近い怒りだった。俺もちょっとビビったし。


ただ、そんなことが気にならなくなってしまうほど、クロスの次の発言が衝撃的だった。


「あっ。そうそう、言い忘れてた。真宗くん、後10回くらいしか魔術使えないからね?」


「…………は?」


長い沈黙の後に出た俺の間の抜けた一言は、静まり返った部屋に小さく響いた。


……………………………………………………

To be continued

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