第30話そして彼は日常へと戻る

新章13.そして彼は日常へと戻る


「なんか、気持ち悪いくらいあっさりだったな。」


クロスに半強制的に古竜にされた帰り道、俺はそんなことを思いながらトボトボと廊下を歩いていた。


そういえば、結局イナたちに何も言えずじまいだったけど、あいつらどうしてるんだろうか。流石に2週間空いたんだ。クロスが何かしらの説明をしておいてくれただろう。

何をしてたのか、あいつちょこちょこどっか行ってたし。


「しかし、2週間か。」


ふと、そんな言葉が口から出た。特に何か意味があったわけでもなく、疲労からくるため息と一緒に思わず口に出た感じだ。


思えばギルドに入ってからずっとバタバタだったな。てか、シルヴァに連れてこられてからずっとバタバタしてたな。

いや、そもそも里を出てから事件ばっか起きてる気が…。

やめておこう。思い出すだけで憂鬱になってきた。

せめてこの先、面倒ごとが起こらないよう祈っておこう。


「おっと危ない。通り過ぎるとこだったぜい。」


感慨に耽っていると、見覚えのある扉の前にたどり着いた。俺が泊まっている部屋の隣。イナとルナが泊まっている部屋だ。


中からは声が聞こえてくるが、扉の前からじゃ何を言ってるのかまでは聞き取れない。なんか、久々に会うとなると、ちょっとだけ勇気がいるな。


「ええい!!何緊張してんだ俺のヘタレ!!ここは男らしく……」


「……ダメ…イナ。……私たちは姉妹なんだから…。」


「だからこそじゃないの。ほら、さっさと抵抗をやめなさい。」


「「「あっ。」」」


この時の俺の過ちは1つ。緊張を乗り切るためにノックもせずドアを開けたことだ。親しき仲にも礼儀あり。みんなはこんな失敗しないようにしてくれ。…みんなって誰だ?


状況を整理しよう。ドアを開けた先には、ただならぬ雰囲気で、ルナがイナをベッドに押し倒す。そんな、思春期男子にとっては目に毒すぎる光景が広がっていた。


そして、運悪く気づかれてしまったこの場合、俺が取るべき行動もまた1つだ。

俺は、勢いよく息を吸うと…


「ごぉぉちそうさまでしたぁぁぁぁあ!!!!」


「ごめんなさいじゃなくて!?というか、あんた絶対変な勘違いしてるでしょう!!あっ!!待ちなさい真宗!!」


何かを叫ぶイナを尻目に全力疾走でその場から逃げ出した。


――――――――――――――――――――


「ほんっとーにすみませんでした!!」


仁王立ちするイナの前で俺は土下座をさせられていた。

いや、させられたと言うと語弊がある。現実は、俺が自分からからしていると言った方が正しい。


「まったく。本当に信じられないわ!!」


「マジでごめん。今回に関しちゃ完全に俺が悪い。

けど…シルヴァ!お前いつまで笑ってんだよ!!」


「だって、だって。ぶっははははは!!お前、知らなかったとはいえイナが看病してたのをイチャついてるのと勘違いしてたとか…ふふっ、ふっははは!!!」


騒ぎを聞き、駆けつけて早々に爆笑し始めたシルヴァは、笑いすぎて咳き込みながらもなお笑っている。この野郎…。けど、今回は俺が悪いからなんも言い返せねえ。だって、チラッ。


ほらやっぱり!「これ以上余計なこと言ったら殺す」みたいな目をしてらっしゃいますもん。イナさんが!


「……真宗…最低。」


「お前まで俺を責めるのか!」


風邪で寝込んでいるイナもダルそうに頭を持ち上げて、俺を非難してくる。この場に俺の味方はいないのか…。流石に泣けてくるなぁ。


「そもそもあんた2週間もどこ行ってたのよ。」


「お前らギルマスから何にも聞かされてなかったのか?」


「ええ。そもそもあんたがいないのに気づいたの一昨日だもの。それまで気にもしてなかったわ。」


「お前…。これ以上は流石に泣くぞ。」


イナに泣かされそうになりながらも、俺はこの2週間であったことを話した。


クロスに修行で、殺されそうになったこと。そして、半強制的に古竜にされて殺されそうなったことを余すことなく語った。


「こうして聞くと、まじギルマスが殺人鬼にしか聞こえねえな。」


と言うのが、話終わった後のシルヴァの感想だ。


「悪いけど、つもる話とかは明日でもいいか?丸2週間寝てないから、ふぁあ。めっちゃ眠い。」


「おう。そうしろそうしろ。ルナも明日ごろには風邪も治ってるだろうからな。」


「んじゃ、お言葉に甘えて寝るわ。おやすみー。」


そうして部屋についた俺は、ベッドに倒れ込むとそのまま気絶するように眠り込んだ。


……………………………………………………

To be continued

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