第29話古竜誕生

新章12.古竜誕生


「真宗くん。古竜にならない?」


静かにそう告げたクロスの雰囲気は、先程までのふざけたものとは打って変わり真面目そのものだった。


「何言ってんだあんた。」


ただし。内容がまともだとは言っていない。


「あれぇ?今のはおふざけなしで真面目に聞いたんだけどな?」


「確かに雰囲気だけは真面目だったかもしれないですけど、内容がぶっ飛びすぎてて、ふざけてるようにしか見えないんですよ。」


そう指摘すると、クロスはケタケタと笑って詳しく話をし始めた。


「ごめんごめん。突然すぎてわけわかんなかったよね。っと、その前に一つ話しておかなきゃいけないんだった。

ねえ真宗くん。この世界に終焉の古竜が何人いるか知ってる?」


んーと。何人だっけ…。確か前にじいちゃんが言ってたような…

確か


「4人?」


若干当てずっぽうだったけど、どうやら当たっていたらしく正解とでも言うかのようにクロスは指パッチンをした。


「せーかい!!」


いや言うんかい。動きとセリフに時差があるのはなんでなんだろう。まあいいか。この人の行動理由は考えるだけ無駄だ。この数日でそれだけは分かった。


「命、死、空間、そして時間。終焉はこの4人とされてる。けど、5人いた時代もあったらしいんだ。それが、とある事件があって亡くなる間際に僕の先祖に託したらしいんだ。」


「何を?」


そう問いかけると、クロスはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにためてから言い放った。


「古竜の因子。古竜を古竜たらしめる力のことさ。それがこれ。」


そう言ってクロスが取り出したのは、拳大の虹色に輝く結晶だった。因子と呼ばれた結晶に何故か懐かしさみたいなものを覚えたが、なぜそう感じるのかを考える暇もなくクロスが話始めてしまった。


「この2週間の修行はこの因子に適正があるかを見極める意味もあったんだよ。ほら真宗くんの魔力調べたりしてたでしょ?」


あの地獄の魔力総入れ替え、そんな効果があったのかよ。


「結果は?」


「適正あり。大ありさ。正直ここまで適正が高い子は初めてってくらいには、ね。」


そう言ってウインクするクロスだが、無駄に顔が良いせいで、それだけで絵になるのがムカつく。


「けど、やるかやらないかは君次第だよ。無理強いはしない。これを受け取って古竜になるか。受け取らずに魔王として生きるか。それは自由さ。まっ、どのみち平坦な人生ではないのは変わんないけどね。」


「そもそもで古竜ってなんなんだ?」


「んー。なんて説明したら分かりやすいかわかんないけど…

強いて言うなら属性を司る者…かな。ちなみに竜ってついてるけど別に関係ないらしいよ。」


一番気になるところを聞いてみると、意外にもちゃんと答えてくれた。

……古竜か。少し前の俺なら即答で「NO」と答えていただろう。でも、今は違う。


「やります。」


そう答えると、クロスは意外そうな顔をしてから、柔らかい笑顔に変わった。


「意外だね。真宗くんなら絶対嫌だって言うと思ってたのに。なんかあったの?」


ニヤニヤしながらクロスが聞いてくるが、別に大層な理由があるわけじゃない。


「何スカその謎の信頼は。そもそも会って間もないじゃないですか。まあ、確かにあいつらと会う前なら間髪入れずやらないって言ってたと思う。


でも…入隊試験で痛感したんですよ。俺は弱い。一つ間違えば、ギルマスがこうして特例で入隊させてくれなければ、俺もイナたちも奴隷になってたかもしれない。


あっ、恥ずかしいんでこれは誰にも言わないで欲しいんですけど、俺。あいつら居るの好きなんですよ。あいつらと居る時間が好きなんですよ。この時間を失うのが、たまらなく辛い。


だから、強くなれる機会を与えてくれるって言うんなら、俺はそれを無駄にしたくない。」


話し終えると、クロスはこれまで見せてきた笑顔とはどれとも違う泣きそうな顔で笑った。


「そっ…か。」


そう小さくや否や次の瞬間には、またいつものふざけた笑顔にもどった。感情の入れ替わりが忙しいやっちゃな。さっきのいい雰囲気はどこいったんだよ。


「さあさあ、ではではー!君にこれを進呈しよー!使い方は今からちゃんと説明するからちゃんと聞いててね?」


クロスは捲し立てるように早口でそう言うと、さっきから話題になっている例の塊を俺の口に突っ込んできた!!


「ゔぇ!!まっず!!何しやがる!飲み込んじゃったじゃねぇか!!」


むせながらクロスを睨むと、結晶で窒息させてこようとした張本人は椅子の上で腹を抱えて笑いながら転げ回っていた。


「まあ、説明って言っても今飲み込んだ時点で、しなきゃいけないのは、その塊がなんの属性を司っててどんな魔法を使えるかってのだけなんだけどね。」


そう言うと、クロスは未だ咳き込みながら地べたでジタバタしている俺の目の前にしゃがみ込み、俺の背中を撫でながら説明してくれた。


「うんとね……」


――――――――――――――――――――


「じゃあ、俺はこれで。あっ、いきなり口の中に結晶ぶち込んだのはまだ怒ってますからね?」


「はいはい。気をつけて帰りなよー。」


子供扱いかよ。そもそも、気をつけるような距離じゃないだろうに。そう思いながらドアを閉める瞬間、呟いたクロスの


「君は変わらないね。」


と言うセリフは、俺に届くことはなかった。


……………………………………………………

To be continued

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