第20話入隊試験その2

新章3.入隊試験その2


「そ、測定結果。560万です!!」


ギルドの受付員のお姉さんが放ったその言葉を理解するのには数秒かかった。聞き間違いか?560万?いや、560でも結構ショックだけど、560万はないだろ。


「なんて?」


「560万です。」


聞き間違いじゃなかったらしい。もう唖然とするしかないよね。リアクションできないもん。


「もっかい測り直すってことはできますか?」


「…そうしましょうか。」


だよね、普通そんな反応になるよね。そんなことを思いながらもう一度水晶に手をかざすと、お姉さんの顔から表情が抜けた。


状況から察するに、先程と変わらなかったらしい。恐る恐る、カウンターの上に設置されているメーターを見てみると、560万という数字がドヤ顔で鎮座していた。


「壊れてるとか?」



「ありえません。これは魔力を感知して光を放つ水晶なんです、ですから壊れるなんてことは絶対にないんです。」


そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれた。


「じゃあ、なんかのミスとか?ほら、測り方が違ってたとか?」


「あきらめなさい。それが、あんたの正しい数値なのよ。」


悟ったような顔でイナが肩を叩きながらそう言ってくるが、絶対これおかしいだろ。なんかの病気とかかもしれんし。


そうだ!リズの情報が間違ってたとか?…ってことはないか、さっきの周りの反応を見てればこの数値が異常だってことはすぐにわかる。


それにあいつは嘘つくタイプじゃない。気がする。なんとなくだけど。


「お前。魔王になっただろ?魔力最大値がおかしいのはそれが理由だ。」


俺が絶望感に悶絶していると、シルヴァが小声でそう教えてくれた。そうか!そう言うことだったのか!


「なーんだ、そう言うことは早く言えよ。」


「わるいわるい。人混みを捌くので手一杯になっててな。」


後ろを振り返るとさっきまでごった返していた人混みは、今はきれいに整列している。


ちなみに次はイナの番なのだが、受付の人は変わっている。シルヴァ曰く、俺の数値がおかしいのでギルドマスターに直接判断を仰ぎに行ったんじゃないか。とのことだ。


おっ、イナの魔力最大値が表示されたな。


「はい。魔力最大値1510ですね。ボーダーが1500ですので、ぎりぎりセーフとなります。」


あまりのぎりぎりさに受付の人もクスりと笑っている。


「ぷっ!お前、ボーダーぎりぎりじゃねえか。よかったなー10だけ足りて、10だけだけど。」


「う、うるさいわね!あたしは別に魔王でもなんでもないんだからいいじゃない!」


「別に悪いなんて言ってねえじゃんか、むしろよかったじゃねえか10だけ足りて。ぷぷっ。」


「また笑ったわね!!」


そんな風に俺がルナを煽っていると、いつの間に受付に行ったのか、ルナがちょうど魔力最大値を測っているところだった。まあ、イナがこのくらいじゃ、ルナも似たようなもんだ…


「ま、魔力最大値12万です!!」


「「はぁ?」」


思わずイナとハモってしまった。けど12万?今度こそ壊れたか?流石に受付員も変だと思ったのか「あれぇ?」と呟きながら奥に消えていった。肝心のルナはグッとこちらに向けて親指を立てている。


すいません。俺らの数値がおかしいせいで。ほんとすいません。ちなみにイナは妹に負けたことが我慢ならないのかうつむいてプルプル震えている。


「凄いじゃないルナ!さっすがあたしの妹ね!どうよ真宗!ルナがこんなに凄いってことはあたしもそれくらいの才能があるってことよ!


しかもあたしたちは魔王でもなんでもないわ!これはあたしの勝ちと言っても過言じゃないわね!」


過言だろバカと言いたいが、後ろに人がたくさん並んでる今喧嘩を始めるのはまずい。


「そうかよかったな。ほら、後ろ並んでるからとっとと行くぞ。」


「またバカにしたわね!?」


「お前らさっきからうるせえ!俺たちずっと待たされてんだよ!さっさとだかやがれ!」


どうやらこいつは揉め事を起こさないと気が済まないらしい。


「ご、ごめんなさい!すぐどきますから!」


後ろに並んでいたおじさんの怒号を背に俺たちは早足で二次試験の会場に向かった。


――――――――――――――――――――


そこは、原っぱというよりも高原といったほうが似つかわしいくらい広々としていた。シルヴァはここにはおらず、イナとルナと俺の3人だけだ。


「よぉ、七光り野郎。また会ったな。」


訂正、このチンピラ含めて4人だ。


「お前も一緒の会場かよ。」


「ああ?なんか悪いかよ。」


ひい!いちいち怖い!けど不思議なことに人が苦手なはずのルナはこいつに怯えていない。まじでルナの行動は読めん。

試験が始まる前に少し、試験内容をもう一度確認しとくか。そう思い、先程受付でもらった案内を読む。


えーっと何々?二次試験は対象のモンスターを3体討伐した時点で合格。ただし、1会場30人に対して討伐対象は合格者が半分になる数。つまり45体しかいない。時間制限はなく

討伐対象が全て討伐された時点で終了。また、最後にトドメをさしたものが討伐したこととする。か。


かなりシンプルだな。


「皆さんお揃いのようですので、さっそくですが二次試験を始めさせていただきます!」


俺が案内を読み終わった直後、タイミングよく試験官らしき人が全体に向けて声をかける。


「一次審査でお配りした、案内にはすでに目を通されているかと思いますので、説明は省かせていただきます。制限時間はありません!遠慮も気遣いも何もかも捨て去って全力で臨んでください!それでは…始め!」


こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。


……………………………………………………To be continued

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