東共奪還作戦編

第18話チンピラ魔王

新章1.チンピラ魔王



「グッモーニン! よく眠れたか? 3人とも」


 朝早いと言うには少し遅い時間、8の刻(午前8時)を少し回った時間帯。俺たちが朝食をとっていると、いやにテンションの高いシルヴァが声をかけてきた。


「おう、久々のベッドでぐっすりな」


「そりゃよかった。じゃ、早速になるが飯食い終わったら入隊手続きに行くぞ」


「ちょっとルナ!? それはジャムじゃなくて、さっきコップでつぶれたプチトマトよ!?」


「…………心が綺麗なものにしか……これはジャムには見えない」


「あたしの心が汚れてるって言うの!?」


「論点そこじゃねえだろ! それに今大事な話してるから静かにしてろ! ……ってルナ!それは海苔じゃなくて伝票だから! 食べれないから!」


 まったく大人しく飯も食えんのかこいつらは。そんなもはや定番と化したやりとりをシルヴァだけが爆笑しながら見ていた。


「なんだよ。羨ましいなら代わってやろうか?」


「それは遠慮しとく。けど、お前ら見てると飽きないよ」


 ちゃっかり断られた。まあ確かにこいつらと会ってから退屈はしてないが……その分疲労の溜まり方が尋常じゃない。


「安らぎが欲しい……」


 そんな心の底からの小さな呟きは、騒ぎ立てているイナルナはもちろん。シルヴァにも聞こえなかった。はずだ。


♦︎♦︎♦︎


 朝食をとり終えた俺たちは、食堂から少し場所を変え、ギルドの受付窓口に来ていた。手続きとかようわからんからその辺シルヴァに任せてある。


 おっと、ちょうど終わったみたいだな。


「ほい。手続きはこれで完了だ。じゃ、とっとと試験会場に向かうか」


「そんなタイミング良く試験なんがあるのか……ってまさか!」


「そう、このために昨日急いでここまで連れてきたんだよ」


 マジかこのおっさん。それだけのために何10キロも走ったのかよ。


「ほら急ぐぞ、もうすぐ説明会が始まっちまう」


「ちなみに後どのくらい?」


「そうだな。50秒くらいか?」


「もっと早く言えよばかぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 この後めちゃめちゃ走りまくった。


♦︎♦︎♦︎


 死ぬ気で急いで、なんとかスタジアム型の説明会場にたどり着いた俺たちは着くやいなや息を荒げ立ち止まっていた。


「ふぃー、やーっとついたな。あーしんどかった」


「誰のせいだと……」


 あの後、シルヴァが途中でお汁粉を買ったせいで、さらに急ぐ羽目になった。幸い、説明会場が受付からそこまで遠くなかったおかげでぎりぎり間に合った。


「俺は試験受けないから外で待ってるぜ」


 そう言いながらお汁粉をすすっているシルヴァを置き去りにして、俺たちは説明会場に入った。


「皆さんお揃いでしょうか? お揃いのようですね。お揃いのようでしたら早速始めさせていただきます。始めさせていただくにあたりまずは説明を」


 俺たちが入ったとほぼ同時に、やたら背筋が伸びた痩せ型でスーツのおっさんが独特な口調で話し始めた。


「では説明ということで説明を。まず、今回の試験ですが例年と試験内容が変更されております。いきなり変更は流石にまずいので、私も苦言を呈したのですが、ギルドマスターのご意向でして」


 さらっととんでもない事言われたような気がする……

 俺らは、昨日ついたばかりだから関係ないけど、口調と周りの反応からして、事前通告もなかったんだろうな。


「では、詳しい内容ですが、まずこちらがエリアと討伐対象を指定させていただきます。そこに討伐対象のモンスターを解き放っておりますので、そちらを一定数討伐していただくのが、今回の試験となっております」


 だいぶシンプルだな。筆記とかはないのか。試験って言うくらいだから、もっと複雑だと思ってたけど、これならなんとかなる気がするな。


「そして、討伐対象ですが、レッサーレッドドラゴン5体の討伐となっております。皆さん頑張ってください」


 おぉ! ドラゴン! レッサー小型って言うくらいだから、多分ヴェストみたいにデカくはないだろうけど、それでも響きだけでテンションが上がる。


「受付の方で細かい手続きは済まされているかと思いますので、説明は以上となります。この後各自指定の試験会場に移動してください」


 移動があんのか。 ……って、当たり前だよな。どう考えても、会場の大きさと人数が合ってねぇんだもん。


「鬼丸の後継ぎで逢魔になったって七光野郎はてめぇかよ。おい」


 そんなことを考えてると突然やけにガラの悪そうなやつに絡まれた。背は俺と同じくらいで、顔立ちは整っているが、眠そうな目と、綺麗な真紅なものの謎に一か所だけ立っている前髪の残念さをやけに引き立てている。


 まぁ、だからと言って特に思うところもないんだけど。

 強いて言うなら誰だか分からないけどちょっと怖いってくらいだ。


「そうだけど、そう言うお前は誰なんだよ」


「おいおい。冷てぇじゃねぇの。名前も知らねえなんてよ。いいぜ教えてやらあ。俺は、リズ・インスグレイドだ。仲良くなんてする気はねえがよろしくな、七光り野郎」


 そうやって、魔王を名乗った男は歯を剥き出して凶悪に笑った。

……………………………………………………

To be continued


おまけ

真宗が外国でも普通に喋れてるのは、魔法的な不思議パワー……ではなく、鬼丸による英才教育(?)の賜物です。

雷刃と真宗は小さい頃から鬼丸に、それはもう引くくらいしごかれてきたので、生活に必要な大体の事(家事、翻訳、読み書きetc)はこなせます。

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