第8話ただの余談

序章7.ただの余談


 そんなこんなで、無事船に乗ることができ東共に着いたのが昨日。ちなみに東共ってのは、東方共和国。鬼ヶ島が属してる国の略称だ。

 そこで、雷刃と別れることになった。


「雷刃はこれからどうするんだ?」


「ん? 俺はとりあえずギルドに行ってみるゼ。じいちゃんにこれ貰ったことだしナ」


 と、言って雷刃が取り出したのは、紹介状と書かれた封書だった。


「俺はとりあえず風霊峰ふうれいほうに行きたいから……じゃあ、ここでお別れか」


「風霊峰? なんでそんなとこに用事があんだヨ」


「風霊峰で風古竜に事情話すと万病に効く薬ってのをくれるかもしれないらしいんだよ。だから、痔に効く薬もあるかなーって」


「おまえ、そんな理由で兄貴を見捨てるのかヨ。いや、マサらし言っちゃらしいカ。というか前代未聞だろ。旅に出て、最初にすることが痔に効く薬を探すっテ」


「そこは気にしたら負けなのだよ雷刃くん」


♦︎♦︎♦︎


 ってなわけで雷刃と別れ、今いるのが風霊峰のふもと、1番山に近い村だ。

 ちなみに、ここウグリア大陸には他にも国があって、北方王国、西方公国、そして南方帝国。東方共和国の計4つの国が存在している。

 それぞれ、北王、西公、南帝、東共って略されるしばしばだ。


 ……って、あれ? なんだあの人混み。

 近づいてみてみると、人ごみの中心でおばちゃんが新聞を配っていた。

 なんでたかが新聞にこんな人だかりができてんだ?


「おーい! こっちも一枚くれ!」


 と、試しに叫んでみるが、人が多すぎて全然届かない。


「ねえねえ、そこの……前髪だけ金髪の坊や」


 手を振りながらぴょんぴょん跳ねていると、不意に横から声がかかった。


「え? 俺ですか?」


「そうよ、おばちゃんはこの新聞もう読んだからよかったらあげようか?」


 親切! なんということでしょう。見ず知らずのおばちゃんから新聞もらっちまったよ!!

 いやぁ、世の中もまだまだ捨てたもんじゃないな!


「良いんですか!? ありがとうございます!」


「良いのよこれくらい。貴方旅の方でしょう? うちにやっていきなさいな。ご飯つくってあげるからねぇ」

 

「ありがとうございます! いただきます!」


 そうして、この先どうなるかも知らない俺は、ほいほい知らないおばさんについて行ってしまったのだ。


♦︎♦︎♦︎


 どうして……どうしてこうなった!!!

 くそ! ご好意を無駄にしないようにしつつさりげなく遠慮して食べようと思ったのに!

 美味しすぎて全部平らげてしまった。人に作ってもらうなんてしばらくなかったから舞い上がっちゃったよ。


「あらー、良い食べっぷりねー」


「すみません。全部食べちゃいました。めちゃくちゃ美味かったです!」


「そう、よかったわ。おばちゃんね、こう見えても貴方と同い年くらいの旦那がいるのよ」


 旦那? え? 旦那? 息子じゃなくて? 同い年って俺17だよ? このおばちゃんどう見ても60は過ぎてる、おばあちゃんって呼んでもいいくらいの年だと思うんだけど。


 ま、まあ恋愛なんて人それぞれって言われればそれまでなんだが、それでも40は多分離れてるはずだ。


「それでね? 旦那は今北王の方に言っててね? ほら、戻って来られなくて。ありがとうねぇ。こんなおばちゃんの手料理なんて食べてくれて」


「いえ! こちらこそ、こんなにご馳走してもらっちゃって。今度は俺がご馳走しますね!」


 てなわけでおばちゃんに別れを告げ、風霊峰を目指して、てくてく歩く。この村まで来てしまえばそんなに遠くない。


 切れ痔が治るという期待に胸が高鳴り、この時の俺は完全に貰った新聞を読むことを失念していた。そして、新聞を読むのを忘れていたことを、俺はのちに後悔することになる。


……………………………………………………

To be continued



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る