第7話旅立ちの日に

序章6.旅立ちの日に


 真宗のーゆっくりひとり旅ー! イェーイ……って言うとる場合か!

 どうも先日育ての親に里から追放された男、真宗くんです。今は大陸、東方共和国にある街道をトボトボと歩いてます。

 なんでこんな状況になったかと言うと、それは3日前まで遡る


♦︎♦︎♦︎


「ってわけで、里から出てってもらうぜ。真宗、雷刃」


 何故かハイテンションで告げられたじいちゃんの言葉に、反応はそれぞれだ。


雷刃は、


「オッケー。そんじゃ、正月くらいは顔出すゼ」


 と、引くくらい軽い。こいつはその辺に散歩しに行くのと勘違いしてんじゃねぇのか?

 そして事情も何も知らない、なんならそんな話今初めて聞かされた莉愛は


「――? なんのはなし? お兄たち旅行でも行くの?」


 まぁ、普通そうなるよな。だがしかし、悲しいかな天上天下唯我独尊にして究極のマイペースたるじいちゃんには初めて聞いたなんて通用しない。


「おいおい、莉愛。今更何言ってんだよ。昼間そう決めたじゃねーか」


「初耳なんだけど!? 私さっきまで買い物してたんだよ!? ほら! これ麻婆豆腐用のお豆腐!」


「あ? そーだったか? んじゃわりーな雷刃説明してやってくれや」


「いやいや自分で説明しろ――」

「いいヨー」


「良いんかい!!」


「なんか追い出されることになったんだヨ。俺ら。はい、説明おわりー」


「???」


 そんな説明になっていない説明を受けた莉愛は、口をポカンと開けて呆然としている。まあ、こんな雑すぎる説明をされれば誰だってこんな反応になるだろう。


「さすがは雷刃。素晴らしい説明……ってアホか! それじゃ説明してないのと同じだろ!!」


 ツッコミが足りていない。莉愛の頭がパンクしかけている今、ツッコミは俺一人である。その結果がこのボケ飽和状態なのだ。


「大体。追い出される理由とか俺らも知らないんだけど?」


 じいちゃんのほうに目配せすると、きょとんとした顔で見つめ返してくる。

 なんでそんな反応なんだよ。そのくらいの質問は想定しとけっての。


「あー、そーいや言ってなかったな。わりーわりー。結論から言っちまうとだな、おめーらには、里の外を見て来てほしーんだよ」


「里の外?」


「あぁそーだ。このままきっかけも与えず仕舞いじゃあ、多分お前らは一生この狭い島ん中だ。だからよ、きっかけが欲しかったんだよ。おめーらにはもっと里の外いろんなもん見て来てほしーんだよ。俺が怪我したのが良いきっかけだった」


「じいちゃん……そんなに俺らのこと思って――」

「つーか、3人も育てるのなんざもー疲れたわ。16なんだからそろそろ親離れしやがれや。クソガキどもが」


 一瞬、誰かと思うほどいいことを言ったかのように聞こえたが、どうやら気のせいだったらしい。


「最後の余計なひと言がなきゃもっと感動的なシーンだったんだけどな!!」


「っつー理由だ。わりーな莉愛。」


「うん。そう言うことなら。でも、私だけなんで残ることになってるの?」


「ぐっ、それはだな……」


 いつになく優しい手つきで莉愛の頭を撫でていたじいちゃんだったが、莉愛の思わぬ返しに押し黙る。


「おい、じいちゃん!! 自分が莉愛と離れたくないからってわがまま言ってんじゃねぇぞ!!!」


「はっはっは! 男どもはついほーだついほー……ってわーったよ。そんな泣きそーな顔すんなや」


「泣いてなんか……じいちゃんは俺らが邪魔だったのか? じいちゃんが俺たちのために色々頑張ってくれてたの知ってるからさ」


「はぁぁぁ。んなわけねーだろ。馬鹿かおめーは、いや馬鹿だったな。わりー。今更確認するまでもなかったわ。あのなぁ、俺はおめーらが大好きだよ。だからこそ、この里に縛られねーで欲しかったんだ」


 この爺さんは、ひと言ずつ余計なこと言わなきゃ気が済まないんだろうか? さっきから割と良いこと言ってるはずなのになんかムカつくんだけど?


「ジジバカ」


「おい誰だ今ジジバカって言ったやつ! それじゃただの悪口じゃねーか!! つかいい加減話進めんぞ。出発は明日の朝な! んじゃ今日はもう夕飯食って寝るぞ!」


「へーい」


 なんか、うまい具合に言いくるめられただけのような気もするが、どちらにせよもう拒否権なんてないと悟った俺は、力無くそう呟くほかなかった。


♦︎♦︎♦︎


次の日


「おら、2人に選別だ」


「「――!」」


 俺と雷刃に渡されたものだが、俺にはじいちゃんの愛刀メギドフォルン。

 んで雷刃には、なんか手紙と地図? みたいなやつだった。


「あー、雷刃だけ二つだ。いいなー」


「文句言うなら返しやがれ俺の愛刀を!」


 じいちゃんが剣を取り上げようとしてくるが、俺は1度もらったものは返さない主義なのだ。


「やーだねー。べー」


「じいちゃん! これってあれなのカ!?」


「ああ、あれだ」


 雷刃が小さく震えながらじいちゃんを呼び止めてくれたおかげで、俺は剣を取り上げられずに済んだ。

 指示が多すぎて何言ってんのかわかんないがとにかく「これ」ではなく「あれ」らしい。


「んじゃ、そろそろ出ないとナ」


「あーっと、覚えてっか? 帰ってくる条件」


「わかってるよ。じいちゃんの許可が出るか、東共をヒルデガルドから解放するか、だろ? あとは――」

「俺が死ぬか、な?」


「うん。わかってる」


 ま、じいちゃんが死ぬなんてありえないだろうけどな。


「お兄たちもう行っちゃうの?」


「ああ、早くしないと船に乗り遅れちゃうからな」


「莉愛ぁぁぁ! 俺がいなくても寂しくて泣くなヨ?」


「うん。大丈夫安心して絶対泣かないから」


「そこまで念を押されると逆に傷つくナ」


 雷刃のやつ、出発する前からメンタルボッコボコにされてるけど、本当にこの先大丈夫なのか?


「おい、雷刃! そろそろマジで時間やばいぞ!!」


「まじか……って、まじダ!! じゃあナ! 莉愛、じいちゃん!」


「じゃあまたね! じいちゃん、莉愛!」


「最後まで締まらねえなあ。まったくよ」


 寂しくないと言えば嘘になる。10数年生きてきた故郷を離れるんだ。当たり前だろ? けど、別れ際に見せる顔は笑顔って昨日の夜決めたんだ。


 だか……っら、泣くな。泣くなよぉ。くそ! 泣いてたまるか。次会った時、いっぱいお土産話し聞かせてやるんだ。だから、今はただ、とびっきりの笑顔だけ見せれば良い。心配させる余地もないくらい。


「「いってきます!!!」」


 俺と雷刃は手を振りながら走っている途中、一度だけ振り返ってそう叫んだ。



……………………………………………………

ドゥービーコンテニュー


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