第3話旅に出る目的なんてなんでも良くない?

序章2 旅に出る目的なんてなんでも良くない?


「もう一回言ってみろヨ」


 そう問いを向ける雷刃の声は困惑に満ちていた。

 そんでもって、手に持っていた血抜き用の道具を落としたので、拾って渡してやる。


「だから、俺切れ痔なんだって……ほらよ」


「あ、ありがとナ……って、誰がもっかい同じこと言えって言っタ!!」


 一体何が不服なんだよ、こいつは。俺は言われた通りにしただけだっての。


「だって、雷刃がもう一回言えって言ったんじゃん」


「もー、何騒いでるのさ。らいにい、まさにい」


 俺と雷刃が言い合っていると不意に高い声がかけられる。

 声の方を見てみると、呆れ顔の莉愛りあ――俺と雷刃の従姉妹がタオルを持って立っている。


 じいちゃん譲りの整った顔立ちに、輝くような黒髪をツインテールにしている俺の自慢の妹だ。

 さっき従姉妹とは言ったが、俺たちにとっては本当の妹みたいなもんだな。


「えー!? マジ? 莉愛がわざわざ用意してくれたのカ? もー、お兄ちゃんのこと好きすぎだゾー?」


 今のひと言でわかったと思うが、雷刃は重度のシスコンだ。鬱陶しいから、チラチラこっち見んな。


「うるさいし。シンプルにきもいからやめて」


 まあ、当然の反応だな。雷刃はベタベタしすぎるからダメなんだよ。もっとこうスマートに――


「莉愛サンキュー。やっぱ優しいな莉愛は」


「まさにいどうしたの? 頭打った?」


「あれっ!?」


 なんか思ってた反応と違うんだけど? ……って、おい雷刃。顔を伏せて隠してるつもりなんだろうが、笑ってるの丸わかりだからな? 後で絶対シメる。


「おっ、ちゃんと全員揃ってんじゃねーか。ほら座れ座れ、座学の時間だぞ」


 俺と雷刃がそれぞれ爆死していると、じいちゃんが一体どこから持ち出したのか、牛乳瓶を手に持ったまま歩いてくる。

 ……マジでどっから持ってきたんだ?


「その前に、牛乳瓶なんてどっから持ってきたんだよ」


「あ? 大陸までジャンプで行ってきたに決まってんだろーが」


 大陸まで500キロ程度はあるのにどうやってジャンプで行ったんだとか、そもそもこの一瞬でどうやったんだとか、色々ツッコミどころはあるけど、指摘はしないでおこう。


 じいちゃんの行動にいちいちケチつけていたらキリがないしな。


「ってか、もう座学の時間じゃねぇカ。じいちゃん今日は何すんダ?」


「そーだな。じゃ、今日はこの世界の仕組みについてちょっくら話してやるか」


 話しながらぞろぞろと居間に向かっていき、ちゃぶ台にじいちゃん、俺、雷刃、莉愛の順で円状に座る形だ。


 さっきも言ったとおり、じいちゃんの余命は後3年らしい。だから、俺たちに最低限自力で生きていけるだけの知恵と実力はあって欲しいとのことで、こうして毎日座学の時間をとってくれている。


 だから、毎晩寝る前に座学とは名ばかりのじいちゃんによる嘘か本当かもわからない話を大人しく聞いているのだ。


「んじゃまあ、早速説明してくとだな。まず――」


 そう切り出したじいちゃんは、この世界の概要を説明してくれた。


 数万年前、創世神メギドラによって下界、天界、地獄界の3つの世界が生み出された。

 メギドラはまず初めに、この世界をマナで満たしそれを凝縮して、10体の聖霊を生み出した。


 しかし、その聖霊たちは下界での活動には向いておらず、それぞれの力を因子として凝縮し、下界の人間や亜人に与えた。因子を受け取った者たちは古竜と呼ばれ、現在も下界の各地に散らばっている。


 そして、古竜に選ばれた者が『三魔王』であり、『大罪勇者』と並び『覚醒者』と呼ばれている。

 “ヒルデガルド”もそのうちの1人だ。

 

「――っと、こんなもんだな質問あるやついるかー?」


 長い説明を終えると、じいちゃんはやっと終わったとばかりにため息をつく。


 なるほどな。……ってあれ? そういえば、じいちゃんも確か魔王だったよな?


「はいはい、質問ー」

 

「あぁ? どうした、真宗」


「じいちゃんは魔王なの? 勇者なの?」


「言ってなかったか? 俺は魔王、称号は『逢魔』だ」


 と、じいちゃんがドヤ顔で宣言したところで今日の座学は終わり。各々、寝室へと向かったのだった。


 そんな、健康体そのものに見えたじいちゃんが倒れたのは、その一ヶ月後の出来事だった。

 


……………………………………………………

To be continued


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