第94話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その26 『武器腕』

 サイバネ腕に武器を仕込むのは便利だ。いちいち武器を持ち運ばなくていいし、意表が突ける。たとえ裸一貫になっても、頼れるものがあるというのは良いものだ。しかし、いくつか問題点がある。

 まず、武器内蔵腕はそうでない腕と比べて、腕としての純粋な機能は一段落ちる。腕の機能に必要ないものを仕込むのだから、当然と言えば当然だ。同じグレードの武器腕の持ち主と、普通のサイバネ腕の持ち主が腕相撲をすれば、後者が勝つ。腕力だけでなく、精密動作性や反動制御でも劣るから、射撃でも同じことが言える。

 次に、安全管理が難しい。「標的以外に刃先や銃口を向けない」というのは安全管理の基本だが、腕を決して標的以外に向けないというのは無理である。そして、どんなハイテクで管理されていても、道具というのは故障するし予期せぬ動きをするものだ。武器腕も例外でなく、時に暴発する。そうなれば、よほど運が良くない限り悲劇的な結末は避けられない。

 だがそれでも、武器腕には一定のニーズと人気がある。武器腕のリスクを利便性が上回っていると考えている人間が多く居る証拠である。まあ、ただ単に酔狂なやつも居るだろうが。

 かく言う俺も、リスクを取るサイバネ野郎の一人だった。俺の右腕には30mm多目的ランチャーが入っている。一度こいつがダブルフィードで暴発してえらい目を見たことがあるが、それでも武器腕の使用をやめるつもりはない。いろいろ御託を並べてきたが、俺が武器腕を使い続ける理由はたった一つ。右腕が割れてグレネードランチャーが飛び出すさまがたまらなくイカしてるからだ。暴発で死んでも良いと思えるくらいに。

 肉体も魂も置換可能なこの世の中で、酔狂なこだわりというのは己を強力に位置付けるアイデンティティになる。だから、俺は俺の右腕を深く愛しているし、これからも決して手放すことはないだろう。

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