第95話 ファンタジー掌編を書いてみよう その8 『星の鉱脈』

 二つの山脈に挟まれ深く空に近い床谷には、夜が凝って鉱床を成している。夜の闇が透明感のある黒石となり、その奥深くで綺羅星が沈んで瞬いている様は壮観だ。床谷の星の鉱床をみた誰しもが、あの輝く星々をその手にしたいと願っただろう。千年帝エレスもその一人だった。

 僕である星堀りの鉱夫たちは、隕鉄のつるはしを持って、凝った夜を砕いた。星から来た隕鉄が星を引き寄せるのだと、彼らは強く信じている。数十億年に渡って凝った夜はあまりにも大きく深く、鉱夫たちは何代にもわたって夜を砕き続けた。

 千年帝が星を掘るように命じてから千と二百年、千年帝が没して約二百年経ったある日、最初の綺羅星が掘り出された。『エレスの星』と名付けられたそれは、いまも帝王の冠を飾っている。

 いまとなれば、床谷の綺羅星を手に入れることはそう難しいことではない。『エレスの星』の発掘は星の鉱脈発見の緒端に過ぎなかった。凝った夜の中で星雲を成していた綺羅星は、次々に掘り出され、市場に流通している。気の利いた雑貨屋に行けば、それなりの値段で綺羅星を用いた小物が買えるだろう。偽物には注意しなければならないが。

 市井に行き渡ってなお、人々は千年帝の気の長さと一途さを思い、綺羅星にそれを投影する。恋人たちは、自分たちの愛が千年帝のように死してなお永く続くよう祈り、綺羅星の指輪を揃いで身に着けるのだ。

 

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