第82話 登場人物が一人の掌編を書いてみよう その8 『透明人間』
俺はいわゆる透明人間だ。下腹にぐっと力を入れると、しばらく透明になれる。ただ、透明になるのはあくまで俺の身体だけで、身に着けているものまで透明になるわけではない。本気で他人に気付かれたくないのなら、全裸になる必要がある。しかも、厄介なことに、透明になっている間は目が見えない。眼球も透明になって光を透過してしまうから当然と言えば当然である。
つまるところ、俺の能力は「全裸で目を瞑っている間は透明になれる」のと等しい。いったい、なんの役に立つのか。四半世紀ほど生きてきたが、透明になれることで得したことはほとんどない。
それどころか、俺自身自分が透明になれるという実感があまりない。透明になっている間は、目が見えないので、自分が透明になっているところを見たことがないのだ。他人に聞いたり、ビデオに撮って観たことはあるが、いまいちだ。
他人に出来るないことがひとつできるのだから、損ではないのだろう。天与の技能を活かせないことに悶々とすること以外は。
俺は今日もこの能力の活用法を考えながら、思いつかないでいる。でも、まあ透明になる能力なんて、悪用するのが関の山だろうし、役に立たないのは良いことなのかもしれない。
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