第83話 登場人物が一人の掌編を書いてみよう その9 『おろしたての身体』

 義体を新調してから一週間、最近は毎朝数km走ることにしている。全身が機械なのに運動なんて意味あるのか、とよく聞かれる。確かに、ものにもよるが人工筋繊維は基本的に筋肥大を起こさないし、そもそも太らないからダイエットは不要だ。しかし、だからと言って運動が無用というわけではない。

 新調したばかりの義体はグリースが馴染んでいないし、脳が新しい身体を動かすのに慣れていない。軽負荷の運動をこなすことで、身体も脳も新しい環境に練熟してくる。早い段階で、義体の構成単位の組み合わせが悪いことがわかれば、早期の対応で脳に余計な負荷をかけることもない。

 これが普段からランニングもしていないのに、ぶっつけ本番で弾丸を避けるために亜音速運動などをすると、まあ、大抵は上手く行かない。下手な操縦に姿勢制御ソフトの安全機構が働いて、思わぬ動きをすることになる。命のやり取りの場で、ソフトまかせの不随意行動など致命的な隙でしかない。

 大枚叩いて身体を新調したのに、そのせいで死ぬのは馬鹿馬鹿しい。やはりなにごとも、日々の積み重ねと事前の準備を怠ってはならないのだ。

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