第52話 ちょっとホラーな掌編を書いてみよう その3 『アルバム』

 クローゼットを掃除していたら、アルバムが出てきた。私のものではない。この部屋を借りていた以前の住民のものだろう。

 アルバムというアルバムは随分と古びていた。そもそも今日日アルバムというもの自体が珍しい。私は、好奇心からアルバムの中身を覗いてみることにした。

 一番最初の写真は、女性が病院の一室で赤ん坊を抱いているというものだった。そのあとの写真も、女性に抱かれていた赤ん坊が中心に映っている。どうやら、このアルバムは子どもの誕生から成長を記録するために造られたものらしい。赤ん坊はすくすく成長し、あっという間にランドセルを背負うようになった。運動会で子どもが大玉転がしをしている写真が、アルバムの最後のページに貼ってあった。

 最後の写真で、私はふと違和感に気付いた。子どものずっと後方、校庭のフェンスの向こうにひとりの男が立っている。中肉中背のどこにでもいそうな男は、張り付いたような笑顔を浮かべて、こちらを見ていた。私は男に見覚えがあった。アルバムを遡ってみる。すると、入学式で校門前に子どもが誇らしげに立っている写真に男を見つけた。男は張り付いたような笑顔を浮かべて、校舎の二階の窓からこちらを見ていた。

 不気味な男だ。子どもの同級生の保護者かとも思ったが、さらにアルバムを遡ってみるとそうでもないようだった。子どもが幼稚園に通っていたころの写真にも、男が写っていた。奇妙なのは旅行先や子どもの遠足で撮ったと思しき写真にも、男が写っていることだった。しかも、決まって張り付いたような笑顔を浮かべて、カメラの方を見ているのだ。背筋に怖気が走った。

 私はそれ以上、アルバムを見るのをやめた。アルバムは元の場所に戻しておいた。男がストーカーだったのか異様に心配性な親族なのかはわからない。だが、これ以上考えない方が良いような気がした。私は他人のアルバムを無用な好奇心で覗いてしまったことを悔いた。

 次の日、いつものように私は出勤のために電車に乗った。そのとき、向かいのホームに、見覚えのある男の顔を見た気がした。だが、ホームを移動する人ごみに塗れて、一瞬で見えなくなってしまった。額に汗が滲み、心臓が早鐘を打つ。私は心の底から、自分の軽薄な行動を悔いた。

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