第51話 アクションシーンのないファンタジー掌編を書いてみよう その4 『黄金の肌』
ガルダスケの街の中央にある広場には、大きな黄金の盃が鎮座している。『帰らずの盃座』と呼ばれるそのモニュメントは、ガルダスケが永遠に失ったものを忘れないようにと据えられた戒めであり、もしかしたら失ったものが戻ってくるかもしれないという儚い期待の表れだった。
遥か昔、ガルダスケには古い神々の生き残りが住んでいた。『黄金の肌』と呼ばれたその神は、完全な球体の身体と、その名の通り黄金で出来た肌を持っている。ガルダスケの住民たちは、毎日神の肌を削って黄金を得、それを売って生活をしていた。神は尽きぬ金鉱脈であった。
かつてのガルダスケは大変栄えていた。住民たちに貧者はおらず、みな満ち足りて暮らしていた。そんな折、誰もが寝静まった夜深く、ある強欲な男が鍬を持って神へと歩み寄ってきた。
「みんな馬鹿だ。毎日少しずつじゃなくて、もっとたくさん金を削れば、もっと裕福になれるのに」
男は鍬を神へと突き立ててその肌を勢いよく削り始めた。神は言った。
「ああ、ダメだ。そんなに削っては。やめてくれ!」
「なにがダメなんだ。あんたから削れる金は果てがない。いくら削ってもいいはずだろう」
「毎日少しずつならいいのだ。私が金を生み出すのが間に合うから。でも、そんなに一気に削ってしまうと、間に合わなくなる」
「そんなのは嘘だ。神に限界などあるものか。このケチ野郎め!」
男は神の嘆願を聞かなかった。男は鍬を使って、一心不乱に金を削った。そして、ある瞬間、金ではないなにかもっと柔らかいものに鍬の刃先が当たったのを感じた。
神はこの世のものとは思えないほど大きな声で絶叫し、どこかへ飛び去って行った。男はいきなりのことにポカンとしていた。男が握る鍬には、べっとりと金色の血がこびりついていた。
絶叫によって目を覚ました住民たちは、やがて神が街を去ったことを知った。住民たちはなんとか神を呼び戻そうとした。男が神から削った最後の金で、神を再び迎えるための盃座を作った。強欲な男を街で一番高い時計塔に吊るし、許しを乞うた。だが、なにもかも無駄だった。
いまも神は戻らない。盃座は虚ろのまま1000年が経つ。だが、住民たちは、心のどこかで神がいつか帰ることをいまも待ち望んでいる。
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