第45話 アクションシーンのないファンタジー掌編を書いてみよう その2 『ノベッチョ』
私はノベッチョを飼っている。図体はデカいが、なかなかかわいいやつだ。ノベッチョの身体は平坦で長く、少し山椒魚に似ているが、ずっと大きくて三対の太い足が付いている。黒蛋白石のような両目がくりくりとしていてとても愛らしい。体表は黒光りする厚いウロコで覆われている。尻尾は体と同じくらい長く、太くて立派だ。バックリと深く裂けた口には、ノコギリ刃に似た小さく鋭い歯がびっちりと生えている。
ノベッチョは雑食で、ときに大型の哺乳類すらも捕食する。人を食うこともしばしばだ。なので、異国では『殺戮大土竜』『厄災天神』などとも呼ばれているらしい。ノベッチョのウロコは魔法に耐性があり、砲弾ですらはじき返す強度があるため、軍隊でも手を焼くほどだ。
当然、ノベッチョの機嫌を損ねると私も殺されかねないので、その辺は気を使っている。まず、私はノベッチョを飼うために島をひとつ買った。自然豊かな島に、ノベッチョの食物となる草木を植え、羊、牛、熊、オオナマケモノなどの獣を放した。発情期のノベッチョは交尾ができないと暴れ回るため、番も用意した。まあ、ノベッチョの発情期は約130年周期のため、運が良くないと私がノベッチョの交尾を見ることはできないのだが……。
腹が満腹で、機嫌が良ければ、ノベッチョは人を襲うことはない。どうも、味が好みでないらしい。大馬のたてがみで作った巨大なブラシで、ノベッチョ自身が掻けないところを掻いてやると、満足げに鼻をフンと鳴らす。それが愛おしくてたまらない。
狂暴な近竜種を飼っている私に人々は言う。
「殺されるかもしれないのに怖くないのか?」
「ときに、人だって人を殺すだろう」
そう答えると、人々は決まって釈然としない顔をして、話をやめてしまう。私もそれに対して、いつも釈然としない顔をするのだった。
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