第44話 ちょっとホラーな掌編を書いてみよう その2 『虫さされ』
蚊かなにかに刺されたようで、腕がかゆい。前腕の中ほど辺りがぷっくりと腫れて、熱を持っている。虫刺され用のかゆみ止めは塗っておいたが、まだ痒い。こういうとき、いたずらに掻いてはいけないとわかっているが、どうしても掻いてしまう。
口吻だか針だかを刺された傷口が、小さな水ぶくれになっているところを、無意識に爪で引っ掻いてしまって、痛みが走る。これ以上、いじるのは良くない。ちょうど、絆創膏があったので、虫刺されに貼っておくことにする。
一日、絆創膏はそのままにしておいた。風呂に入るときに剥がしてみると、腫れが大きくなっている気がした。湯舟の中で、腫れを揉んでみると、皮膚は張っていて、なにか膿んでいるような気がする。爪で引っ掻いたのがまずかった気がする。湯舟の外に腕を出して、傷口を少し指先で絞ってみる。すると、黄色い膿がにじみ出てきた。これは良くない。膿を出しきって、風呂から上がったらちゃんと消毒をしよう。
指先に力を入れると、びゅっと膿が飛び出して、浴室の床を汚した。これは本当に良くない。明日は医者に行こう。そう思いながら、シャワーで傷口と床を洗い流す。そのときだった、床に飛び散った膿の中に、なにか小さい蠢くものが見えた。だが、それはシャワーに流されて、見えなくなった。
心臓の鼓動が早くなる。あまりに一瞬の出来事だったので、あれが目の錯覚なのか本当に膿の中に蠢くものがあったのか、自分でもわからなかった。
次の日、仕事を休んで、営業開始と同時に皮膚科へと飛び込んだ。結局、いろいろ調べて貰ったが、ただの虫刺されが膿んだだけだと言われてしまった。塗り薬と抗生物質を処方してもらって、あとは家に帰るほかなかった。
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