第35話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その8 『俺の得物』

 武器の選定というのは難しい。目的に合った打撃力と運用性を兼ね備えていなければならない。懐具合と相談するのも重要だ。

 俺の目的はヤクザがケツ持ちバックに付いた悪徳ストリップバーへのカチコミだから、とりあえずバーの用心棒バウンサーが倒せればいい。まあ、用心棒と言っても色々だ。軍用レベルの装備でガッチガチに義体を固めたプロの傭兵も居れば、小金持ちの学生をカモってイキるその辺のチンピラと変わらないほぼ生身のやつもいる。

 軍用戦闘義体の防弾外皮バリスティック・スキンは30口径のフルサイズ弾すら防ぐほど。マイクロミサイルランチャーでもあれば簡単に対抗できるが、あれは高級すぎる。現実的なところでは、最低でも対物ライフル、できれば重機関銃が欲しい。しかし、そんなうすらデカいものを街中で持ち運ぶのは大変だし、身体機械置換率50%の生中傭兵サイボーグである俺が重機の類を手持ちで運用するのは無理がある。正直言って、軍用レベルの装備品で身を固めてる連中に対しては、ケツまくって逃げるのが精一杯だ。もう、その辺りは割り切るしかない。

 とりあえずは、俺とおなじくらいのサイボーグを想定するとしよう。実際、出てくる可能性が一番高いのは、市警や企業警察……治安維持組織の横流し品で身を固めた奴らだろう。治安維持組織向け義体の防弾性能は、中間弾薬ならぼちぼち防げるかなといったところだ。フルサイズの弾薬はかなり怪しくなってくる。

 そう考えると、プライマリは30口径のバトルライフルあたりが良いだろう。できれば、取り回しのいいやつ。Sp-BR03Mのショートバレル-ブルパップカスタム。これで行こう。モジュール式だから、こういうところで融通が利くのも強みだ。ブルパップ方式は操作系にクセがあるが、軍属時代に散々使ったからその辺りは大丈夫。スフェリコン・アームズ製の銃器がいま使ってる火器管制ソフトと相性が良いのも加点ポイントだ。

 となれば、サブはヘント造兵廠のモデル27が良い。44口径マグナム弾を連射する思い切ったコンセプトの対サイボーグ用マシンピストルだ。特徴的なのは、激烈な反動を制御するためのトリガーガード兼用のフォアグリップ。緩く湾曲してグリップと繋がるこのフォアグリップは、握りやすくて俺の好みだった。埋め込み式のフラッシュライトが付いてるのも気が利いている。こいつなら、治安維持組織向け義体にも十分な打撃力になるだろう。

 得物の選定が終わったところで、弾薬やアクセサリの注文も含めて進行役に調達要求を出す。

 武器の選定というのは難しい。いくら、頭をひねったところで限界があるし、予想外のことなどいくらでも起こりうる。だが、まあ、それなりにベストを尽くせたなら、後悔せずに死ねるというものだろう。

 進行役から返信が届く。注文の品は二時間後に届くらしい。俺は、射撃訓練場の予約を取り、しばしの仮眠のために目を閉じた。

 

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