第34話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その7 『後の祭り』

 カーマが引き金を引いた。カーマの得物——4番径ゲージ仕様のうすらデカいポンプアクションショットガンが火を噴く。『絶叫野郎イェーラー』の名に恥じない爆音と共に八発の鉛玉が銃口から飛び出して、ガストン・ハンソン・ジュニアの胸をぶち抜いた。最高級品の拡張背骨サイバネと引き裂かれた生の心臓が、ぐっちゃぐちゃに混じって背中から飛び出す。

「ナメやがってよぉ! この七光り野郎!」

 絶叫野郎の凄まじいリコイルをカーマの強化義手が滑らかに受け止める。鬼の形相をしたカーマがハンドグリップを前後させ、もう一度引き金を引いた。ガストン・ジュニアのイケメン顔が木っ端みじんに砕けて、スイカ割りのスイカみたいに飛び散った。

 ついでなので、俺は腰の拳銃を抜き、四回引き金を引いた。ジュニアの股間がズタズタになって、血が滲みだす。高級な調度品でモノトーンに統一してあった居間が、あっというまに血まみれになった。

「あーあ、俺たち、市長の息子を殺しちまったよ……」

 俺は腰のホルスターに銃を戻して言った。カーマは舌打ちした。

「仕方ねえだろぉ? 私をマジで切れさせるこいつが悪い。は~っ、思い出したらまたイラついてきた」

「確かに。『クズの代わりはいくらでもいる』はベタ過ぎて逆に笑えた」

「死んで当然だろこんなやつ。しかも、悪いやつだし」

「すくなくとも、俺たちと同じくらいにはな」

 ガストン・ハンソン・ジュニアはこの街の市長ガストン・ハンソンの息子で、俺たちの雇い主だった。俺たちはジュニアの指示で悪いことをなんでもした。そしてそれを、ジュニアの父親は権力でもみ消した。

 ジュニアは俺たちに脅迫や拷問、殺人を洗車くらいの軽いノリで命じる。人間の命や尊厳をなんとも思ってないやつだから、当然俺たちも消耗品扱いだ。報酬が良いから我慢していたが——俺が爆発する前にカーマが爆発した。

「ま、過ぎたことは仕方ない。さっさとこんな街から出るか」

「いや、それじゃあ私の気が収まらねえ。市長を殺す。息子をこんなに甘やかしたツケを払ってもらわねえとな」

「正気か?」

「正気で居ることにどれだけの価値がある?」

 カーマは俺を見上げた。俺は肩をすくめた。

「確かに。その通り。じゃあ、やるか」

「ああ、やろう」

 カーマは満面の笑みを浮かべ、ハンドグリップを前後させた。デカい薬莢が排莢口から飛び出して、血だまりに落っこちた。俺はそれを見て、ああ、こいつはなんて気持ちのいいやつなんだろう、と思った。

 

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