第36話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その9 『ぼくの仕事』

 飛行船の後方下部に引っ付いたぼくの身体は、夜風にうすーくひらたーく引き延ばされて、やがて厚さ0.003m、幅0.3m、長さ30mの吹き流しになった。非光学センサーに没入していると、普段とは世界の見え方が違って面白い。夜風の流れにつぶさに触れ、大小さまざまの機械たちが発する電波を盗み聞きをするのは、人間の身体ではできないことだ。

 ぼくはシミュラクラ警備保障の情報収集課に所属している。今日はお偉いさんがカストディアンビルの最上階でパーティを開くとかで、駆り出されたのだ。爆弾を積んだ光学迷彩搭載の浮遊自動車ホバー・カーがビルに突っ込んできたり、携行地対地ステルスミサイルが飛んできたりしないかを、こうして監視している。

 まあ、そんな有事はめったにない。めったにないがたまにある。だから、気を抜くわけにはいかないのだ。とはいえ、変わり映えのしない監視作業は眠くなる。すると、ぼくの脳波を監視しているパーソナル・エージェントAIが、「対処」をしはじめる。没入チェアに座るぼくの実肉体に、わずかな電流を流すのだ。痛みはない。痛みはないがちょっと不快でぱっちりと目が覚める。おかげで、ぼくはお偉いさんが飲めや歌えやしている5時間の間、ちゃんと役目を果たすことができた。

 今回は、ぼくの持ち場以外の所でも、とくにこれと言った事件はなかったらしい。現場は飲み過ぎたお偉いさんの介添えで忙しかったらしいが……。とにかく、なにもなかったのは良いことだ。次回もこうあって欲しいと思いながら、ぼくは意識を浮上させた。

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