第31話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その4 『射手』
電磁メタマテリアル製の
私の眼下には
軍用コンパウンドボウと重合金鏃の付いた矢のセット。これは私の仕事に欠かせないものだった。せっかく光学迷彩で自分を隠蔽していても、マズルフラッシュや銃声で居場所をばらしては意味がない。この弓と矢ならば、熱も光も音も出ない。高度なステルス装備を持つ私にはまさにおあつらえむきの武装だった。
弓に矢をつがえたちょうどそのとき、標的が店から出てきた。ブレイン・タルボット。ワインレッドの悪趣味なスーツを着た長身の男。
私は弓を引き搾った。重サイボーグである私の膂力と、重合金鏃の重さが合わされば、矢の貫通力は対物ライフル弾ほどになる。ブレインの頭に照準を合わせ、矢を放つ。
ストリングがたわむ音と矢が空気を引き裂く鋭い音だけが響く。私は着弾を待たずに、狙撃場所から退避した。素早く、路地裏へと滑り込む。あらかじめ飛ばしておいた偵察マイクロドローンが、ブレインの死の瞬間を伝えてくる。ブレインは矢で脳幹を貫かれて死んでいた。
誰にも気づかれないまま仕事を終えた私は、誰にも気づかれないままその場を去った。
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