第32話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その5 『蝿つかい』
ある日、俺は俺が死んでいるのを見つけた。俺はダイブチェアに寝転んでいるところに、額に鉛弾を二発ぶち込まれて死んでいた。俺は俺の死体を、蝿型マイクロドローンの瞳で見つめていた。
ちんけなチンピラの弱みを握るための情報収集をしている最中のことだった。どうしてもダイブした三十二機のマイクロドローンから離脱できずに、自分の身体の元にに物理的に戻ってみたらこのありさまだった。
俺は死んでいるはずなのに、なぜこうしてマイクロドローンを操縦できているのか……ひとつだけ心当たりがあった。俺が使用しているゼロ遅延遠隔操作システムは、操縦者の一瞬先の操作を予測することによって、実質的に遅延のない操作を可能にしている。この操作の予測には、思考パターンエミュレーターが使われていた。いまの俺はきっと、三十二機のマイクロドローンが作り上げた分散システム上を走るプログラムに過ぎないのだろう。
しかし、俺の自意識はまったく以前と変わらなかった。すくなくとも主観上は、いつものようにダイブチェアに寝転んでマイクロドローンを操縦している時となんら変わりない。くよくよしても仕方ないので、俺は三十二匹の人工蠅の群れになって暮らし始めた。
情報収集の仕事は変わらずにこなすことができた。それどころか、生身の身体の制約がなくなった分、仕事の効率が上がり始めた。稼いだ金で、俺はマイクロドローンを買った。いままでは、脳の情報処理能力の都合上、マイクロドローンを同時に操るのは三十二機が限界だったが、いまならマイクロドローンを増やせば増やすほどに情報処理能力は上がるのだ。俺は、最終的に八千百九十二匹の人工蠅の群れになった。
蠅の群れになるのはそう悪いことではなかった。弾丸二発では到底殺せなくなった俺は、正体不明の『蝿使い』として名を馳せ、都市伝説『蝿男』として噂になった。
今日も俺は一万六千三百八十四対の瞳で、この街のことを見つめている。
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