第30話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その3 『リユース』

「おめえの悪運も尽きちまったみてえだな。ええ? サムチップさんよ」

 オーロックスは俺に銃を突き付けて言った。オーロックスの顔面に埋め込まれたナカノ・オプティック社製四眼が俺を見ている。オーロックスの黒光りするマッチョな義体はハイパワー用のグリースでひどく匂う。俺はこのなんとも言えない油臭さが苦手だった。できれば、常に4~5メートルは離れたい。だが、俺は荷台用のゴムバンドでパイプ椅子に縛り付けられていて、身動きが取れなかった。

「まあ、それはあんた次第かな」

「じゃあ、尚更おめえは終わりだボケッ! 俺のシマで散々舐めたマネしてくれてよぉ」

「俺のシマって……ここらの運送基地はそちらさんと、うちで共同管理ってことになったじゃないか」

「なおさらだろうが。俺たち『鉻甲虫クローム・ビートルズ』に断りなく電子ドラッグなんて売りやがって……」

「そりゃ、誤解だ。あれはただの疑似体験ソフトで——」

「うっせえ! そんな言い訳が通用するか!」

 オーロックスは口角泡を飛ばして、俺の頬にぐりぐりと銃口を押し付けた。すると、オーロックスたちの取り巻きが沸き立った。殺せ殺せの大合唱だ。オーロックスの得物はバカでかい回転式拳銃。火薬発火式の骨とう品だが、象撃ち用のの.60口径マグナム弾を接射されては、俺のチタン合金製の頭蓋骨もただでは済まないだろう。俺は、ため息を吐いた。

「できれば。平和的に解決したかったんだが、仕方ない。オーロックス。俺の名前の由来は知ってるか?」

「知らねえ、興味もねえ」

「だろうな」

 俺は後ろ手に縛られた親指同士をこすり合わせて、その覆いサムチップを外す。隠していた単分子鋼索モノワイヤーが、はらはらと外に出て行くのを感じながら、俺は親指を振った。

 オーロックスのぶっとい首にピッと水平に赤い線が走る。そこから、じわじわと赤いものがにじみ出てきて、ずるりと頭が落ちた。オーロックスは鮮血を噴き出すオブジェと化して、床に倒れ込んだ。オーロックスの取り巻きがどよめいた時には、俺はゴムバンドを切断して自由になっていた。

 頭領の死に頭が追い付いていない連中に向かって、俺は言った。

「死ぬか? 従うか?」


「はい、プランBで対処しました。ええ、従わない者はすでに始末を。はい、わかりました。直帰します」

 俺はボスへの報告を終え、オーロックスのはげ頭から立ち上がった。

「死体、片付けておいてくれ。俺はもう帰る」

 そういうと、元オーロックスの取り巻きたちは、ぺこぺこと頭を下げて、元仲間の死体をかき集め始めた。なかなか従順になった。これなら、有象無象のチンピラどもも、手駒として使えるかもしれない。

 今日の仕事は上々だ。俺は近場に待機させておいた愛車を呼んで、そのまま家に帰った。

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