第29話 初心に帰ってサイバーパンク掌編を書いてみよう その2 『リユース』

 いくらシリコンとクロームで肉体を置換しようと、命とは儚いもの。今日もまた、俺の元に変わり果てた姿の身体改造主義者クロームジャンキーがやってきた。解剖台の上のその死体は、首から上が吹っ飛んでいて、人相はわからない。ムッキムキの典型的な筋肉ビーフ野郎で、背骨が光学神経系オプト・ニューロンのそれに置き換わっている。健康的な褐色肌と銀クロームに輝く背骨が独特のコンストラクトを産んでいる。

 俺は『分離屋マゴット』で、いまから、この死肉とクロームの背骨を引きはがさねばならなかった。

 サイバネ技師には高度な医学と工学の知識が必要で、誰でもなれるようなものじゃない。対して、分離屋はある程度の工学の知識があれば誰でもやれる。とにかく、サイバネをまた使えるように取り外すだけでいいし、サイバネの主の命を気にしなくていいからだ。俺はメスとノコギリでもって、仕事に当たった。

 二時間後、ステンレスのトレイの上に、クロームの背骨がきれいに乗っていた。最近の中では一番いい出来だった。生体適合性樹脂でできた接合にくっついた肉も最小限だ。

 良いサイバネは中古であっても、そこそこ高値で売れる。このクロームの背骨もどこぞのだれかに買い取られて、どこぞのだれかの背骨と置換されるのだろう。死んだ人間の一部が、自分の一部になることを厭わないタイプの身体改造主義者クロームジャンキーにはお買い得な品物だ。

 俺は雇い主に、外したクロームの背骨の写真を送った。すると、報酬が支払われて、俺の拡張視野の端っこの数字が大きくなった。これで、今月も家賃が払える。用済みになった肢体を、焼却炉に突っ込んで、俺は一日の仕事を終えた。

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