第4話 換喩を使ってサイバーパンク掌編を書いてみよう 『知らないやつら』

 俺が自室で古いSF映画を観ながらカウチポテトと洒落こんでいると、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。ドアスコープを覗いてみると、そこには編み笠みたいなレドーム頭をした全身機械置換者フルボーグが居た。

「ヨシムラか」

 俺が鍵を開けると、ヨシムラが部屋の中に入ってくる。

「久しぶりだな」

「ああ、久しいな」

「ん? 声を変えたのか」

「この前の仕事の報酬が思ったより良かったものでな」

「なるほど。その辺に座ってくれ」

 俺がそういうと、ヨシムラはソファにどっかりと座った。

「貴公、またこの映画を観ているのか。変わらんな」

 ヨシムラは半笑いで言った。

 貴公? 妙なカッコつけに俺は首を傾げた。

「……ああ、好きだからな」

「完全版だの、ディレクターズ・カット版だの、ファイナル・カット版だの拙者にはよくわからん……」

 そこで、俺は気が付いた。こいつはヨシムラじゃない。映画好きのヨシムラは絶対にこんなことを言わない。こいつはヨシムラと同じ義体をしたまったくの別人だ。なぜ知らない男が、ずかずかと俺の部屋に上がり込んできたのか。薄気味悪さに背筋に悪寒が走る。いや、扉を開けたのは俺自身なのだが。

 そこで、俺はまた気が付いた。この編み笠頭も俺と同じように、俺を他の誰かと勘違いしているのではないか。俺も全身機械置換者フルボーグだから、俺と同じ義体を使っている別人が居るはずだ。編み笠頭も「久しぶり」と言っていたし、俺と同じ義体を使っている旧友と再会するつもりだったのが、住所を取り違えたとかで、俺の部屋に来てしまったのではないか……。俺は俺の頭の冴えに心の中で膝を打った。

 あとは、この果てしなく気まずい事実をこいつにどう伝えるかだが……。

 俺が頭を悩ませていると、玄関の呼び鈴が鳴った。とりあえずドアスコープを覗いてみると、そこにはフルフェイスヘルメットめいた頭部をした全身機械置換者フルボーグが居た。

「タバタか。いや、まさか……」

 嫌な予感に苛まれながら鍵を開けると、タバタと思しき男が部屋の中に入ってくる。

「よお、久しぶり! 元気してたか? 新生活は上手くやってるか? 出張で近くまで来たから寄っちまったよ! お、レインマンもいるじゃねえか! 三人で集まるのって何年ぶりだっけ?」

 フルフェイスヘルメットはタバタではなかった。一瞬でわかった。そして、編み笠頭もフェイスヘルメットの言動を見て、ぽかんとしていた。これはどうやら、この世界には俺とヨシムラとタバタに似た三人組が三組いるらしいと直感する。まったく奇妙なことだ。

 俺は混迷極まるこの状況をどうやったら打破できるのか、電脳をフル回転させて考え始めた……・

 

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