バレンタインデーにチョコケーキ作ったら……
野林緑里
第1話
「バレンタインデーというこで、今日の調理実習はチョコケーキ作りをします」
二月十四日といえばバレンタインデー。
女の子が好きな男の子にチョコレートをあげるというのが一般的な風習。だからといって、女の子だけでケーキを作るわけではない。あくまで学校の授業だ。もちろん男の子もチョコレートケーキ作りに参加する。
ケーキといっても二時間弱で完成させて試食まで完了しないといけない。スポンジから作ろうとしたら、卵をメレンゲになるまで混ぜたりとか時間がかかり、とても二時間で納まらないのだ。
そういうわけでスポンジではなく、バスケットにチョコレートでコーティングしてデコレーションするという作業になる。
その手順というのは、チョコレートを一度湯煎で溶かして、皿に一枚のビスケットを置く。その上に溶かしたチョコレートをのせてまたその上にビスケットを乗せる。ある程度の高さまできたら、まわりにもチョコレートをぬると完成といったシンプルなものだ。
小学生でも簡単にできる作業なのだが、不器用な私はきれいなタワーなんてできるわけもなく歪な形のチョコケーキへとしあがったのだ。
「みなさん。できましたね。それでは、いただきましょう」
嫌な時間が来たと思った。
チョコケーキは自分の分だけじゃない。
同じグループの分も作って渡さなければならない。
私はまじめに同じグループの四人分を作ってそれぞれに渡したのだが、同じグループの三人は私だけに渡さなかった。
だから、私には一つの小さなチョコケーキ。ほかの三人はの四つのチョコケーキが目の前にあった。
「いただきまーす」
その合図でみんながグループ分のチョコケーキを食べ始める。チョコケーキはさほど大きい訳じゃない。ビスケットを三枚重ねただけの小さなものだったから、簡単に食べてしまえるものだ。
彼らは四つあるうちの三つを食べおえた。
けれど、私のものだけはけっして食べようともせずに私の方へと返してくる。
そしてこういう。
「こんなまずそうなもの食べられるわけないじゃん」
「仕方ないよね。○○さんが作ったものなんてバイ菌が入っているにちがいない」
そうやってクスクス笑うのだ。
最悪
最悪
その三人でも最悪なのに、ほかのグループの連中まで私たちの座る席にやってきて、私の作ったチョコケーキに「これバイ菌じゃん。きたねえ」とか言い出す始末。
あー、嫌だなあ
どうして学校なんて来てしまったのだろう。
嫌だな、
いやだ
いやだ
今すぐ帰りたい。
そんなことを考えていると思わぬ出来事が起こったのだ。
突然、私のグループの三人がお腹を押さえながら苦しみだした。
「どうしたの?」
先生が慌てて駆けつけてくる。
「おっお腹が痛い」
一人が顔をしたに向けたかと思うとおもいっきり吐いた。
「うわっ、きたねえ」
近くにいた子が思わず遠退く。
すると、別の子もおもいっきり嘔吐する。
そして三人目のお腹がキュルキュル鳴り出す。
「うんこおおおお!」
そう叫ぶと家庭科室を飛び出していった。
いったいなにが起こったというのだろうか。
呆然としているなかで、だれかが叫んだ。
「おい! このケーキカビが生えているぞ」
そういわれてみると私の座っていたテーブルの上においてあった食べ掛けのチョコケーキにカビらしきものが付着している。
「まさか、お前のも入っているのか?」
一人の男の子がそういって、私の作ったチョコケーキを2つに切った。
しかし、そこにはカビらしきものは入っていない。
「よし食べてみよう」
「やめたほうがいいよ」
だれかが止めようとするのも聞かずに、男の子は私の作ったケーキを食べた。
男の子はしばらく沈黙する。
「これ、上手い!」
やがて突然そう叫んだ。
「うまいよ。このチョコケーキ。食べてみろよ」
そういって友人に進めた。
すると友達も食べてくれた。
「美味しい!! なんでだ? めちゃくちゃ上手いよ」
そう?
そうかなあ?
別に大したもの使ってないんだけどなあ。
昨日お母さんがバレンタインデーフェアとかいうところで買ってきたチョコを使っただけなんだけだなあ。
うーん、たしかゴディバとかいうチョコだったような気がするけどよく知らない。
「ぎゅるるる」
私のチョコケーキが話題になっているそばでさっきまで嘔吐していた二人が立ちたがると、
「うんこもれるううう」と叫んで教室を飛び出していった。
いったい何が起こったのかはわからないが、なんとなくスカッとした気分になった。
バレンタインデーにチョコケーキ作ったら…… 野林緑里 @gswolf0718
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