第12話
「んまあ! アリスじゃないの!」
「まさか公爵家を追い出されて帰ってきたの?」
「そうよね! いくら呪われた公爵でもアリスでは妻になど出来ないわよね!」
「あんたって子はお茶会の一つにも参加したことのない駄目な子だものね!」
前触れなく帰参した私に、長女と三女は公爵に愛想を尽かされて追い出されたと決めつけて嫌みや文句をぶつけてきた。
「アリス! 何故帰ってきた!? まさか何か粗相をしたのか!」
お父様も私が追い出されたと決めてかかってくる。出戻り長女と一緒にしないでもらいたい。
「まあ、いいわ。お茶を淹れてちょうだい。帰ってきたなら役に立ってよね」
「そのドレスは脱ぎなさいよ! あんたなんかにはもったいないわ!」
私は実家にいた時は姉のおさがりしか着たことがなかった。そのことでよくお兄様が謝ってくれたっけ。
公爵家ではレオナ様が私に合わせたドレスをたくさん作ってくれるので、驚いて恐縮してしまった。新しいドレスを作るというのを毎回止めているけれど、断りきれないことも多い。今着ているのも、王都の最新のデザインのドレスだ。私と身長が変わらない三女に今にも剥ぎ盗られそうな雰囲気だ。
「お父様、お姉様。私は追い出されて帰ってきたのではありません」
私は玄関に立ったまま胸を張って言った。
お義姉様に支えられたお兄様が階段を下りてきて、心配そうな顔で私を見た。
私は一枚の書状を広げ、はっきりと告げた。
「お父様——ゲオルグ・ソレート伯爵は心身の著しい不調により伯爵位に在ることが困難となったため、その嫡男ウィリアム・ソレートに伯爵位を譲るものとする。……国王陛下に承認されました。つまり、お父様は既に伯爵ではありません」
「な……っ」
お父様が絶句した。
本来、生前に爵位を譲渡する場合には譲位する本人の署名が必要なのだけれど、「本人が心身の著しい不調により署名が不可能な場合に限り、血縁者が本人の同意無く爵位を継ぐことが可能」という法律を利用させてもらった。
「何を言い出すのよ、アリス!」
「そうよ! 意味のわからないことを言わないでちょうだい!」
「意味はわかるでしょう、ロザリンドお姉様。お父様は隠居してお兄様が爵位を継ぐのよ」
私は国王の承認を突きつけた。
「馬鹿なっ! 何故、私が隠居などしなくてはならんのだ!」
お父様が真っ赤になって怒る。何故って、仕事をしないからに決まってるでしょうが。
「伯爵としての仕事をお兄様が代わりに行っていることを複数の貴族家当主が証言してくださっております」
実際に、ここ数年はお兄様が全ての仕事を請け負っていたのだから、証言を集めるのは簡単だった。
「だからといって、何故貴様がそんな勝手な真似を——」
「それは当然だろう。我が公爵家が妻となる者の実家が健全に営まれているか、調査しないはずがないだろう」
私の背後から、満を持してアディロフ公爵が登場した。カッコヨく登場するために、壁に隠れてスタンバイしていたのだ。
お父様とお姉様達が驚愕の表情になった。
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