第11話




「お願いがございます」


 執務室に入室して、仕事中のエイダン様に訴えた。


「願い……だと?」


 エイダン様はペンを走らせる手を止めて私を見た。そして、愉快そうにニヤリと笑みを浮かべた。


「覚悟はあるのか? 願いには相応の代価が必要だ」


 もちろん、覚悟の上だ。


「私の願いを叶えてくださるのなら、私、アリス・ソレートは生涯をエイダン・アディロフ様に捧げます。下働きとしてでも侍女としてでも愛弟子としてでも妻としてでも、お望みの通りにお仕えいたします。

 使用人として置いていただけるのならば昼夜を問わず闇の魔物と戦いましょう。黒いマントを着けてエイダン様のデザインした剣を腰に履いて「地獄の扉を守護する煉獄の騎士」と名乗ってもいい!

 妻として迎えていただけるのならば、式は地下の魔法陣の上で執り行っても構いません。ドレスも真っ黒でいいし、お望みならば眼帯も着けましょう!」


「ひぃっ……!」

「そんなっ、いくらなんでも……」

「アリス様、早まってはいけません!」


 周りで聞いていた使用人達があまりのことに声を上げる。中には卒倒しかける者もいた。


 しかし、私はまっすぐにエイダン様と見つめ合っていた。

 公爵家とはなんら関係ないことでエイダン様の手を煩わせようとしているのだ。これくらいの覚悟は当然のことだ。


「この俺ですら、眼帯をつけるのには相当の勇気がいる。十七の小娘がその恐ろしさを知っているというのか? お前にそれを成し遂げる覚悟があるのか」

「あります!」


 兄夫婦のためならば、眼帯をつけるぐらい何てことはない。黒い眼帯に髑髏の刺繍が施されていても構わない。


「眼帯をつけた暁には「一つ目の竜騎士」とでも「独眼竜」とでも名乗って見せましょう!」

「そこまでの覚悟があるとは……どうやら俺はお前を甘く見ていたらしい」


 エイダン様は額を押さえ、ゆっくりと息を吐いた。


「よかろう。お前の願いを叶えてやる。言ってみろ、アリス・ソレート。お前は何を望む?」


 私は大きく深呼吸をして、口を開いた。




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