第10話
お義姉様からの手紙を受け取って、私は首を傾げた。
お義姉様とお兄様とは定期的に手紙のやりとりをしているが、先週手紙が来て返事を送ったばかりなのに。もしかして、何か緊急の用事だろうか。
封を切って中を確かめた私は、怒りで目の前が真っ赤になった。
お義姉様の手紙はお兄様が倒れたことを知らせるものだった。
過労と精神的な疲労が原因らしい。
まず、長女が既婚者である侯爵に言い寄って、侯爵の奥方とそのご実家から訴えられた。
その最中に、使用人と逃げた次女が現れて厚顔無恥にも金の無心をしてきたという。追い返したが連日門の前で騒いでいたそうだ。
さらに、新しく使用人を雇ったものの、三女が酷くいびったために全員逃げ出してしまった。
お父様はお兄様に仕事も面倒事の処理も押しつけて飲んだくれている。
現在はお義姉様がご実家に頭を下げて、お兄様を看病するために使用人を借りている状態だという。その使用人達にも父や姉達は自分の家の使用人であるかのように好き勝手に命令しているようだ。
お兄様は倒れてからずっと私の心配をしているそうだ。自分がしっかりしないと、父と姉達が私をだしにして公爵家にまで迷惑をかけてしまったら、せっかく公爵家で元気に暮らしている私の立場が悪くなってしまうと言って、無理して仕事をしていると。
兄の手紙では私の心配ばかりで、自分のことは何も書いていなかったし、お義姉様も私には知らせないつもりだったそうだ。
けれど、このままではお兄様が本格的に病気になってしまいそうで、お義姉様はいっそソレート伯爵家を捨てて、お義姉様のご実家の領地に小さな家をもらって平民として生きていくことを考えているという知らせだった。
確かに、お兄様とお義姉様の健康と幸せのためにはその方がずっといいかもしれない。お兄様がいなくなれば、ソレート伯爵家は潰れるだろう。姉も三女も伯爵家の仕事なんて出来ないし、まともな人がお婿に来てくれる望みも薄い。
お兄様とお義姉様が伯爵家を捨てることを思い切れないのは、たぶん自分達がいなくなったら私に迷惑がかかると思っているからだ。
何故、真っ当に誠実に生きているお兄様とお義姉様が苦しめられなければならないのか。
手紙を持つ手が震えた。
お兄様とお義姉様のために、私が出来ることはあるだろうか。
しばらく考えた後に、私は決意を固めた。
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