第353話 おもてなし

 船団に対して俺達が取る対応は、ワーグナーへ接近してくる事に対して監視するのみで何も手を出さず、上陸するまで放置する事にした。


 奴らは一見順調そうに航海しているが、上陸してから程なくして一気に捕らえてやる。まさかそんな事になるとは思わず、奴らなんてちょろいだろうと思いながら来ているんだろうなと考えていた。だが、現実はそんなに甘くないぞ。


 船団に対して途中で下手に手を出すと、あっという間に全滅させてしまいそうなので止めたのだ。


 途中で嫌がらせをする案も出た。

 提案者はホーネットだ。上空から糞尿を撒くという案だった。俺は即座に却下した。誰が撒くんだと。飛べるのは俺しかおらんだろ!そうして彼は妻達から袋叩きに遭っていた。気持ちは分かるが持っていくのは辛いんだよ。収納に入れるのは御免被りたい。


 奇襲とまでは言わないが、夜中に上空からフラッシュを放ち、寝不足にさせるという手もあった。だがそれも止めた。それを実行するのは、奴らがどこに向かっているかを、こちらが正確に把握している事を伝えてしまうからだ。


 だが、進行先の把握はしたいので、命令を複雑にさせてしまうが、サラマンダー先生にお願いした。

 奴らはおそらくちゃんとした方位を把握する技術を持っているのであろう。

 俺はそう思っていた。確か緯度と経度などを星を頼りに割り出して進む、そういう道具があったはずだと。この世界にもあるのかどうかわからないが、残念ながら俺には航行術を頼りに航海する術を知らない。六分儀だったか?


 昔の人達は今のようにレーダーだとかGPS等もないから、星の位置や日付から進む方向等を割り出したのではなかろうかと思っている。


 もしくは方位磁石か?

 はっきりと方位が分かっていて進んでくるのだろうとは思うものの、途中途中入ってくるワーグナーへの進行情報は、ほぼ寸分違わずまっすぐ岸辺を目指していた。


 こちらの準備が整った2日後にその時は来た。目視で先頭が確認できたのだ。一般人の服装をさせた兵士をダミーの町に放ち、一般市民が慌てた素振りで城の方に逃げたようにさせた。城に戻ってからは完全武装に切り替え、城に入ってきたところを捕らえる。


 見張り台はけたたましく鐘を鳴らし、狼煙を上げて敵襲を告げる。合図はもちろん本来のものではない。

 偽のパターンを用意していたのだ。向こうからは見た事のないパターンの狼煙と、鐘の鳴らし方に疑問を感じるかどうか分からないが、船団は陸地から目視できる位置になってから、漸く自分達を発見したと勘違いするだろう。こちらは門を固く閉じて籠城の構えをする。向こうにはそういうふうに映るであろうと計画していた。


 海岸にはデカデカと看板を立てた。


【これより先、無断での侵入は敵対行動とみなす!皇帝ランスロット!】


 このような看板を複数作っていた。どんなボンクラでも見えるであろうという感じの大きさでだ。


 やがて船団が停止し、艦砲射撃が始まった 。城壁はびくともしないが、門はダメージを受けて行く。当初は百発放って1発当たるかというような感じだった。また、艦砲射撃が始まると共に小舟が出され、そこに多くの人が乗り込み、上陸を始める。


 城壁は見た目は砲撃によりボロボロではあるが、厚みがあるので奴らの艦砲射撃程度ではどうという事はない。表面を少し削るだけだ。向こうもそれが分かっているのか、途中から狙ってくるのは門ばかりだ。


 前方に着弾したりするが、時間と共に命中精度が上がってきた。着弾位置に対しての補正を掛けて修正しているようだ。


 時折壁を飛び越えて、町中に着弾する弾もあった。やがて最初の小舟が岸辺に辿り着く頃には城門が燃え出し、やがて崩れ去った。


 城門と他の建物の間には距離がある為、町の炎上には至らないが、向こうが砲撃を仕掛けてくるのは基本的に城門に対してのみだった。町中に飛んで行くのはあくまでも流れ弾である。可能な限り町を無傷で占領しようとしているとしか思えなかった。


 こちらに向かってきた船というのは1000隻を超えていたようである。1000隻を超えた辺りから数えるのを止め、大まかにこんなものだろうという数え方にしていた。単に面倒くさかったからだ。


 上陸し出した敵兵等は隊列を組み、やがて陣地を築き上げて行った。そして斥候が城門の方に向かって行く。わざとらしく矢を射掛けるが、敢て外しているが中途半端な情報を与える為だ。


 やがて全ての小舟が岸辺に辿り着いたが、上陸した兵士の数は4万から5万といったところであった。


 盾を持った者と、火縄銃を持った者がいる。また各々の腰には剣が下げられていた。火縄銃を持っているとはいえ、接近戦にも対応しなければならないからであろうと思う。また、十分な数の銃が無いようだ。


 俺達が立てた無断侵入をするなという看板は、奴らが笑いながら燃やしていた。面白いように想定通りの行動をしてくれるものだから、俺は笑うのを止められなかった。


 そして敵兵は意気揚々と一糸乱れぬ動きで城を目指して進むのであった。

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