第352話 迎撃準備

 俺達はワーグナーに向かって来る船団に対して備える事にした。航行中の洋上で倒してしまう手も有ったが、上陸して攻め入るも歯が立たずに追い返えされる方が抑止力になると判断した。


 なるべくなら殺しは避けるが、死を覚悟する位の恐怖を与え、2度と攻め入ろうとしてはならない!そういう恐怖を植え付けてから国に送り返してやろうと思っている。


 また、こちらの能力が奴らの常識の域を超えているはずなので、手を出してはいけない相手に手を出したという事実を分からせてやろうと思っている。恐らく来るまでに1か月位掛かると思っている。まだ出港準備ができていなかったのと、船団の様子からは、出航準備にまだ1週間は掛かると推測した。


 それと、距離から計算すると、航海に3週間は掛かるのではないかと推測される。

 帰りの事を考え、燃料を節約しての航海になるはずだからである。巡航速度ではなく、戦闘速度がいつまでも続く訳がない。燃焼効率が悪く燃料を食うからだ。


 また、早苗が建物を構築するのは、一瞬で構築するという訳ではない。ワーグナーサイズのお城を構築するのに2週間は掛かり、更にそれを大きくしていく。また、間取りを変えて大きなホールも作ったりするので、準備できるかどうかはギリギリのラインというところである。尤も一般民家程度であれば一瞬で構築できる。


 城攻めをさせ、城を陥落させたと思わせる必要がある。


 早苗は喜んで協力してくれていた。初めて自分が役に立つからである。それも誰も殺す事なく、送り返す為の準備だと言うと尚更喜んでいた。彼女はあまりにも優し過ぎる。

 人が傷つくのを極端に嫌う、そういう性質なのだ。


 早苗が城作りに勤しんでいる間、早苗には護衛を付けていて、護衛達には海を見晴らせる事を兼務させていた。

 俺はと言うと、皆と協力し町を渡り歩き、未踏領域を開拓して、あちら側の調査を進めていった。1ヶ月ではそれほど多くの情報が得られる訳ではないが、不思議な事に鉄道がなかった。技術的には蒸気機関車であれば、十分に作れるだけの技術力を持っているはずなのだが、鉄道がない。


 発想の問題だろうか?また乗用車もない。やはり馬車が主流であった。なぜ船にだけ原動機があるのかは謎だ。そこの部分だけ文明レベルが突出していたのだ。また、火縄銃が使われており、更に謎が深まる。

 過去の異世界人が偏った技術を伝えた為に、自力の技術者が育たなかったのだろうか?


 調査自体は順調に進んでいた。使われている文字はこちらと同じ文字であった。また、言語も一緒である。違いは多少の訛りがある位だ。


 文献を調べていると、彼の地には異端者を封印するというような表記の書籍がいくつも見つかった。彼の地とはこちら側の事だ。無視できない内容だ。


 それと魔石がやたらと高く売れた。ゴブリンの小さい魔石であっても、一般市民の1ヶ月分位の稼ぎにに匹敵する価格なのだ。


 なので俺達は魔石を色々な町で少しずつ売り、活動資金を作っていた。主に首都に屋敷を購入したりして、活動拠点を作ったりしていた。

 寝泊まりするかどうかは別として、調査中に戻ってきて休憩したり、資料を読んだりするスペースは欲しいものである。


 また、治安の方はかなり良く、平和そのものだった。

 国の構成は大小様々な国が集まっており、それらの国がひとまとめになり、1つの共同体と言うか、連合国を作り上げていた。また、最高権力者はそれらの国の首長達が議員を務めている。更に大統領制があり、選挙にて決められる。全ての国の中から立候補が可能で、選挙にて選ばれた大統領が統治しているようだ。

 どちらかといえばアメリカの制度に近い。


 大統領制も既に導入から200年を超えているそうだ。この200年はというと、戦争というものが発生しておらず、時折海外から船団が攻めてくる位で、常にそれらを撃退して平和を保ってきたと言う。こちらからは攻めないが、責められれば全力で守る専守防衛のスタンスである。


 だが、何故か今回はワーグナーに攻め入ろうとしているというより、数万人の部隊が進軍中だ。今は出航を確認してから既に3週間近くが経とうとしており、港町は軍船がいない事により閑散としているような状況であった。


 俺は時折船団の行方を探し、どの辺りにいるのかというのを常に把握していた。 


 あと2、3日で船団が到着しようとしていた頃になり、ようやく偽物の町が完成し、各種トラップを仕掛けていくのであった。

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