第168話 ダンジョン4日目
ボス部屋への扉を開けると、そこに見えたのは無機質な部屋ではなく、楕円形の闘技場、そう所謂コロシアムがあった。
但し観客は誰もいない。
コロシアムの中央付近に向かうと中央が球場に光出し、光が消えるとキメラが現れた。ランクSの強敵で、天井の高さも20m以上あり、能力を十分発揮出来るだろう。
巨大な鳥の体に豹の頭、腕が6本ある醜い化け物だった。
ホーネットが雄叫びを上げた。
「うらーーーーこれでも喰らえや!」
「こら、馬鹿!一人で突っ込むな」
俺の制止を振り切り突撃していき、頭に蹴りを喰らわせるも、奴の腕があっさりとホーネットの胸を鎧ごと貫き、体を引き裂いた。
一瞬の出来事だった。そして咆哮とともにユリアに突進してきたので俺がユリアの前に立ち塞がる。アリゾナがキメラに斬り掛かり、真正面から対峙した。そして両脇からオリンズとシカゴが斬り掛かって行くも、2人共羽による風圧で吹き飛ばされ、壁に激突して悶絶していた。
俺はサラマンダーを唱え、キメラを討ち滅ぼせと命令して10体を解き放った。
アリゾナを下らせたが、間髪入れずサラマンダーがキメラに向かうと、キメラとサラマンダーが戦い始めた。サラマンダーが口から炎を吐くも、羽の一振りで掻き消されていく。逆にキメラは飛び跳ねながら確実に一体ずつ羽根や腕でサラマンダーを切り裂いていく。
そして1分もしないうちに全てのサラマンダーが駆逐されて行った。俺はその間に準備していった大量のアイスアローで周囲を囲んでおいて、サラマンダーの最後の一体が霧散した直後に一斉に解き放ち串刺しにして行った。
魔力の大半を注ぎ込んだだけあり、次々と刺さっていき全弾発射した後はほぼ虫の息だった。アリゾナが念の為、羽根、脚、腕の全てを切り落とし、俺は息を切らせていたが、何とか転移で首を落として終わった。
得られたスキルは魔獣生成だった。
魔石に魔力を付与すると、オリジナルの魔獣を生成してそれを使役できるらしい。
ドロップがあったが禍々しい感じの大剣で剣の長さは柄も含め2m位だ。とてもではないが俺には使えない。なので、アリゾナに使ってみるかと聞くと、使いたいというので剣を渡すと、少し剣を振り満足していた。
取り敢えず出口が開いたので、出口の外に野営のテント等を出し、アリアやオリヴィア達による治療が終わったシカゴ達をボス部屋から出して、野営の準備をさせた。ボス部屋は戦いの痕跡でかなり凄惨な状態なので、敢えて外で野営をする事にした。
アリゾナは自分の治療は後で良いと言うので俺の護衛を任せて、皆には治療を任せた。俺がホーネットを蘇生させるので、それに伴い意識を失くした俺をテントに運ぶようにアリゾナに指示をした。
バラバラになったホーネットの死体を集め、ヒールで体を治したり、欠損修復を行っていき、体の準備は整った。
[ちゃんと俺の言う事を聞けよこのバカタレが!俺がいなかったらお前は本当に死んでいるんだぞ!馬鹿野郎が!ちゃんと生き返れよ。死者蘇生]
やはり魔力がごっそり持って行かれ、心臓がゆっくりと動き出した位に俺は意識を手放した。
目覚めは唐突だった。
がばっと勢い良く起きあがると、膝枕をしてくれていたユリアと頭がガチンコしたのだ。
「キャー」
「ぐがあ」
俺とユリアは2人して呻いた。
記憶が混乱しており、状況がいまいち理解できなかった。
「すまん、誰か今の状況を教えてくれ。気絶する前の事がよく思い出せない」
ふと周りを見ると、正座をしているホーネットが、アリゾナに説教をされている所だった。
段々思い出してきた。確かホーネットがキメラに体をバラバラに引き裂かれて死んでしまい、俺が死者蘇生を試みたのだったなと思い出し、蘇生が成功した事が分かった。
しかし、正座をさせられて説教をされている所を見るに元気そうだ。
オリヴィアが状況を教えてくれた。
俺は1時間位気絶していたようで、ホーネットは俺が気絶した直後にむくっと起きた。
「アリ兄、腹減った。何か食べ物ってない?」
何事もなかったかのように起きてアリゾナへ喋った為に、怒ったアリゾナに殴られたらしい。そして10m位吹き飛ばされ、首根っこを掴まれて正座させられて今に至ると。
俺も叱りつけようと思ったが、既に説教をされている状態だった。別の者が更に追い打ちを掛けるのは良くない。
一時的には効果があるが、人を育てるやり方とは逆なのだ。
叱る事自体は必要な事になるが、過度に行うのはマイナスでしかない。
一般的に人は誉めれば育つが、下手に追い込むと潰れるというのを理解するのは管理職の基本だ。まあ稀に追い込むと物凄い事になる奴もいるが。
まあアリゾナの説教は、キリがなさそうなので、そろそろレスキューしてやる必要がある。
「ホーネット、体は大丈夫か?それとアリゾナ、その辺にしておいてやってくれ。その様子じゃあまあ、ホーネットも反省しているようだからね」
「分かりました。我が主はお優しいのですな。ホーネットよ、お前の勝手で全員の命に関わる事態にもなり兼ねなかったのだぞ。一度死んだお前を蘇生して頂いたランスロット様に感謝をするんだぞ。いいな」
ホーネットは項垂れており、はいと返事をするのがやっとのようだった。
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