第167話 ダンジョン3日目
見張りの交代時間の為、ホーネットに肩を揺すられて俺は起こされた。
昨夜寝る前に確かめたが、念話はダンジョンの同じ階層にいないと飛ばない。
クロエに念話が出来なかったのだ。
アリアを起こし、テントの外に出て見張りを交代した。
特に何もなく平和だったと。
アリアに見張りをお願いして朝食の準備をしていく。後は料理を出すだけにしてからアリアと語り合った。
普段は孤児院に手伝いに行き、身寄りのない子供の世話をする事が日課となっている。身寄りがいない彼らが可哀想で仕方がなく、せめて姉のような存在になろうとしているのだと言う。孤児院の一部の者しか王女とは知らないのだそうだ。
かなりお節介な性分で意外とお姉さんチックだ。
結構ロマンチストと庶民的な所も好感が持てた。純粋な心の持ち主で、優しく穏やかな所が素敵なのだ。頑固な一面もあったが、またそこが魅力的だ。
いつの間にか手を握っていて、お互い顔を赤くしていた。
アリアの顔が照れて赤くなっているが、綺麗な心の持ち主のアリアに比べると、自分の存在が恥ずかしくて志郎は赤くなっていた。
綺麗だなぁ。早く肌を重ねて愛し合いたいなぁ!あんな事やこんな事をしたいなあと思っていたからだ。
朝になり皆を起こし、身支度と食事をして出発となった。
今日の目標は25階層をクリアする事とし、皆に告知をした。夕食の時間になった段階でまだ到着していない場合は、最寄りのセーフティーポイントで野営をするとしたのだ。
前日の反省から戦闘準備をしてからセーフティーポイントとなっているボス部屋の扉を開けたが、何も起こらなくて拍子抜けした。
21階層からはがらっと雰囲気が変わった。
そこは草原だった。
時折低木がある程度の何の変哲のないありふれた風景だったが、寒かったのだ。
深々と雪が降っており、足首が埋まる位の高さまで積もっており、非常に歩き難い。出てくる魔物も雪道を得意とする獣型ばかりだった。
歩き難い為に、この階層を抜けるのに午前中一杯掛かっていて、思わぬ足止めを食らってしまった。
また、この階層からの違いが他にもあり、階段の手前にフロアボスみたいなのが陣取っていた。このフロアはオーガが2匹で、阿修羅像の如く身構えていたのだ。
最初は生き物の気配が無いので、これは彫像等のオブジェクトかと思っていたが、先頭の俺がオーガの真横に来た瞬間、唐突に攻撃をしてきたのだ。
俺は突如気配を感じて辛うじて避けたが、流石に度肝を抜かれ、慌てふためきながら1匹を大外刈りで床に転がし、ファイヤーボールを連射していた。
もう1匹はアリゾナが落ち着いて対峙し、剣の一閃にて胸の辺りで両断していた。俺とは違い嫌味な位、様になっていて、男から見ても格好良かった。
そして俺は皆から大顰蹙を買ったのだ。寒い所にいきなり大魔力のファイヤーボールを放ってしまい、辺り一面が灼熱地獄と化したからだ。ダンジョン内であのような火魔法を遣うだなんてたまったものじゃない!と
足元の雪は中途半端に溶けてぐちゃぐちゃだし、滑りやすくなったりで特にユリアからはアホだのバカだのと散々言われており、俺は縮こまってしまいます。
いじけているとアリアだけは慰めてくれました。ビーナスっす。天使っす。俺は泣いたっす。そして容赦のないホーネットだ。
「ランスのアンちゃん、俺達を焼いて喰う気かい?確かに強いけど、俺の頭とあんまり変わんない位に後先を考えてないっすよね!」
俺は中二病羅患者に同一視された事にショックを受け、狼狽えて思わず階段を転げ落ちてしまった。慌てたアリアが俺を抱きしめてくれた。
「大丈夫です。ランスロット様のお側には私がおりますので、挫けないで下さい。頑張って後先を考えずに行動してしまう癖を治して行きましょうね!出来る限り私も協力をさせて頂きますわ!」
優しい筈の言葉の筈が、更に俺の心の傷に塩を塗り込んでいき、落ち込んだ俺からは黒いオーラが出ていた。そんな気がする。要はホーネットが言っていた事を上品に言っているだけだ。
いつの間にかセチアに頭を撫でられて涙を拭かれていた。
少し呆然としていると全員が揃ったので前に進みだした。
22階層は砂漠で歩き難く、怒りを覚えるレベルだった。
23階層はジャングル
24階層は湿地帯
そして25階層はボス部屋のみだった。
ボス部屋の直前で皆の疲労具合が宜しくないので、ボス部屋の入口の前で野営をする事にした。
基本的にボス部屋及びその入り口の前と出口の前はセーフティーポイントだ。
皆疲れているので食事の後は見張り以外は早々に眠りについたのである。
そして俺も精神的に疲れていて、泥のように眠るのであった。
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