第5章

第124話 悲劇の繰り返し

 私はふと目覚めた。何故か目下落下中である。


「この高さから堕ちたら死ぬよな。不味いよなこれ。しかも何故落下中なのだろうか?」


 そんなふうに風圧を感じながら思っていると、みるみるうちに地面が近付いてきた。もう駄目だ!そう思った瞬間、不思議な事に何故か少し“飛べた“


 辛うじて地面とキスをする事だけは避けられたようだが、コントロールの方法が分からない。飛んでいる高さは木の高さ位なので10m位だろうか?水平に飛んでいると、何やら争いの音が聞こえてきた。どこかの村のようだ。不意に飛べなくなったのが分かる。勢いのまま弾丸の如く飛んでいて、このままの進路で飛んでいくと村人?を襲っている奴に当たるので衝撃に備えて私は顔を腕で覆ってガードした。そいつは身なりが悪く如何にも賊といった奴で、剣を振りかぶっていた。今まさに村人に斬り付けようとしていたが、不意にこちらを向いたが、お互いに避ける事が叶わず衝突した。


 そいつは派手に吹き飛び、頭の中に謎のメッセージが聞こえてきた。


「剣術(片手剣)を奪取しストックしました」


 意味不明な言葉が聞こえてきた。聞き取りはデキたが、意味が分かりません。


 私も派手に転がり呻きながらも何とか立ち上がった。


 まず今の自分を確かめる。

 右目が痛い。何故か矢が刺さっており、引き抜くと眼球が付いてきていた。右目が見えない。何故矢が刺さっているのかは解らないが、失明したという事が理解できた。

 自分の格好を見ると革では無いが、金属?の皮鎧風な鎧を着ていて、盾を左腕に着けている。腕に矢が刺さっていて、おもむろに引き抜くと段々と傷が癒えていき、痛みが引いた。

 右目は見えないが痛みは引いた。背中に剣を2本背負っていた。1本を抜いて構えると、禍々しい力を感じる日本刀と言うより大太刀だ。


 何故か分からないが、これは私の愛刀であり、多くの死地を一緒にくぐり抜けていたのだと魂が理解した。


 1番の問題点は、自分が何者なのか名前が思い出せない事だ。一つ言えるのはここが日本ではなく、今は集落が賊に襲われているという事だ。己の装備もコスプレなどではなく、実用品だ。


 多くの住人が殺されているのが分かる。先程首を刎ねられ他者の首が落下し、体からドピューっと血が吹き出しており、倒れる様が見て取れた。血の臭いなど特撮などではなく、リアルなのだと理解した。


 襲っている奴を見る限り、私より遙かに弱そうだ。

 先ずはこの罪も無い人々を助けよう。私にはそれが可能な力があると心が告げていた。


 賊をどんどん切り裂いていたが、不思議と人を斬ったり殺す事に躊躇いも忌避感もない。


 そして私は闘っている住人に告げた。


「加勢する!」


 一言告げて、押されていた戦況をみるみるうちに覆していき、私の10m位前で襲われている奴が斬られようとしているのが見えた。


「間に合わない!」


 そう思った瞬間、何故かアイスアローを使わなければ!と思ったのだが、その瞬間、伸ばしていた手の先から氷柱の様な物が飛んで行き、賊の頭に突き刺さった。

 そういえばさっきから何とかを奪取しましただの、ストックしましただのと不思議な声が聞こえてくる。

 しかし魂は驚いてはいなかった。


 遠くの奴に向けて試しに


「アイスアロー」


 と言うと、先ほどの氷柱が飛んで行く。


 これは凄いなと思い、どんどんアイスアローを放ち、賊を倒していく。


 やがて全てを倒し、負傷者の救助に当たった。何故か、ヒールというのが使え、生きてさえいれば助けてやれた。


 負傷者の手当てが一通り終わると、若い者達を引き連れた1人の老人が私の所にやってきた。


「どこのどなた様か存じませんが、旅のお方よ。我らの村をお救い頂き感謝します。私はこの村の村長をしております。貴方様が居合わせなければ、この村の全員が殺されていたところでした」


 村長が手を上げたると1人の若い女性がこちらに向かって来た。


「今宵は部屋をご用意致しますので、どうぞごゆっくりお休み下さい。謝礼にお渡しできる物が残念ながら御座いません。この者セチアを差し出しますので、謝礼変わりに頂いて下さいませ。夜伽などお好きになさって下さい。本人も了承しております」


 セチアと言われた女性が出てきたが、意味が分からない。


「セチアと申します。旅の冒険者様。村をお救い下さりありがとうございます。私のような女でご不満かと思いますが、お仕えさせて頂きますのでどうぞ宜しくお願い致します」


 お辞儀をして家に案内されていった。

 差し出すってどういう事だ?結構綺麗な女性だったな。困ったな、どうしようかな。ここが何処だかも分からないし、状況がよく分からないので、夜伽はともかく話を聞こう。ここでは性接待が当たり前なのかな?夜伽とはそういう事だろう?


 村長の家に着くと風呂を用意してくれていた。


 俺は返り血でえらい事になっていた。家に入る前に先程のセチアさんという女性が対処してくれた。


「失礼します。クリーン」


 私の肩に触れながら1言唱えると、みるみる汚れや返り血が消えていき、綺麗になった。


 風呂に行くと脱衣場にもセチアさんがいて、着替えも用意されていた。


 鎧を何故装着しているのかは分からないが、1人では時間が掛かるから、脱がすのを手伝ってくれるのかな?中々気配りが良い。


 服も脱いでいるが、何故かセチアさんは脱衣場にいる。まあ裸になれば悲鳴を上げて出ていくと思い、風呂に入る。手拭いで体を洗っているとセチアさんも裸で入ってきた。


 多分異世界に来ているのだと思う。

 何故か言葉が通じているし、魔法が使えた。何よりフランス人と思うような外観に、エルフと思われる者もいた。


 セチアさんが入ってきても見ないようにした。

 さっきは驚いて見てしまったが、中々の美人さんで、20代前半。スタイルがかなり良いな。胸が大きくて、綺麗な形をしている。

 この世界は混浴が当たり前なのかな?セチアさんが話してきた。


「お背中お流し致しますね。あらあら随分とお若くご立派なのですわね」


 そう言えば自分の年齢すら分からない。


「ありがとうセチアさん。私は何歳位に見えますか?」


 そう質問したが、ふとセチアさんは服は脱いでいるが、首輪を着けていて、それは外さないんだなと思っていた。


「そうですね、20歳にはまだなっていないのではないですか?」


「鏡を見る限り18、19位だな。18位と言っておこう」


 そう思ったが思い留まった。


「実は記憶がなく、名前すら分からないんですよ」


 そう言うと驚いた顔をした。


「それは大変ですね。ステータスを見ればお分かりに成るのでは?」


 意味不明な事を言っているので、お風呂を出てから部屋で色々教えて貰う事にしたのであった。

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