第31話 求婚の否定
俺は呟いたと言うか、いつ求婚した?と半ば叫んでいた。勿論本当の意味で叫んではいないが。
求婚した覚えが無いと言うと、ナンシーが青くなっていたが、シェリーが説明をしてくれた。
求婚の内容だが、まず独身の女性に右手で握手をするというのは、貴女に対し興味を持つ事を意味する。
そして左手を添えるのは、既にあるハーレムの一員に加わる事を検討して欲しい旨を伝える。
女性が強く握り返すのは検討を受け入れるとの回答で、少なくとも一度以上デートや食事等を行い会話を重ねる。
次に女性から質問をする。 私のような女は好きですか?又は、お嫌いですか?というような質問だ。
そして男性が好きだとか、愛しているとの返答が求婚の求めになる。嫌いだとか、どちらでもないと言えば話がなかった事になる。
そして女性がデートや食事等をしたいと、男性本人又は既存のハーレムメンバーに申し込む。そして約束した場所に女性が現れ、お互いが呼び捨て又は愛称で呼び合えば誤解無く婚約が成立となる。
よく貴族が行う駆け引きの言葉遊び的な古くからある決まりがあり、俺は知らずにナンシーに対してハーレムの一員になるように求め、ナンシーが受け入れてしまったと言う事になると説明された。
俺がやらかしたと呆然としていると、ナンシーが泣きながら俺にしがみついてきた。
「求婚は本心じゃ無かったのですか?私じゃ釣り合わないのですか?」
必死に訴えてきた。
取り敢えず落ち着こうと、人目が気になるからと3人で俺達の部屋に入った。
部屋に入るなり俺は人生2回目の土下座を敢行した。自分で言うのも何だが、それはそれは見事な土下座である。俺は必死だった。マズイマズイこれはいかんやつだ!とてもまずいと。
慌てた2人に起こされ、ベッドに座った。
俺が勇者召喚された転移者であり、この世界の事に疎い事を説明して求婚はしていない旨を伝えた。
そしてナンシーは泣き崩れた。
「運命の出会いと思ったのに酷いよー。やっぱり私がハーフエルフだから幸せにはなれないんだ。うええーん」
啜り泣いてしまった。
俺はそんなナンシーの姿に狼狽え、ナンシーを抱きしめた。
「君の事はまだよく知らないけど、今の所は好意を持っているよ。こんな女性が彼女だったらなとは思うけど、まだ知り合って間もないよね。でも、人として好ましいと思っている。だけど出会ったばかりだし、まだ人生を一緒に歩む事も、子をなす覚悟を決める所にまでは至っていないんだよ。だからナンシーの事をもっと知りたい」
彼女の前で片膝をつき、その小さく柔らかい手を取った。
「私ランスロットいや、志郎は銀髪の乙女たるナンシーに交際を申し込みます。君に私の事をちゃんと知って貰いたいし、君の事は1人の大人の女性として真摯に向き合いたい。どうか俺の善き理解者となって、私の横を歩いて欲しい」
気障ったらしく述べると、ナンシーの顔はパッと明るくなった。
「私でいいの?私が貴方の様な類稀な騎士、じゃなくて勇者様のお側に居ても良いの?」
声も明るくなり、泣き止んだ。
「君が良い。君だからお願いするんだ。君が欲しい!君の笑顔を俺にくれ!」
あれ?これって、まんま求婚か?失言か?と思った。
「はい。改めてお願いします。私ことナンシーは、ランスロット様の全てを受け入れます。どうか私の事を見てくださいませ!」
漸く笑顔に戻った。あれ?様付けで呼ばれてるやん。
俺はナンシーを抱きしめた。そしてシェリーも泣きながら抱き付いてきて、3人で暫く抱き合った。
「ナンシー!良かったね。ランスロット様がちゃんと受け入れてくださったね!」
ナンシーは頷き、嬉し涙を流していた。
「私が選んだ方は勇者様。最初に握手した時に運命を感じ取ったのは間違いじゃ無いのね!」
明るい笑顔が戻り俺はほっとし、ナンシーが落ち着いたので食堂へ戻る事にした。右にシェリー、左にナンシーが抱き付く形でテーブルに座った。2人に両手を掴まれている。文字通り両手に花である。男のロマンであるが、きっと俺の鼻の下は伸びているんだろうなと思うが、どうしてこうなった?普通に食事をするだけの筈だったのに、おかしい!と心の中で叫んだ。
気を取り直して食事と行きたいのだが、今日は子羊のシチューと香味野菜のソテー定食と、見た目も匂いも美味しいと訴えて来ている。
そして有無を言わせぬ感じで2人が交互に俺にあーんして食べさせてくる。
正直周りの目が痛い。抗議はしたのだが、両手を掴まれているので無理というやつだ。
「ソワソワしていますが、私達の事がお気に召さないのですか?」
最初は食べさせられる事に抵抗をしたのだが、うるうるされてしまい、逆らえずに黙ってされるがままにしていた。
よく分からなかったが、異世界より召喚された勇者は女性の憧れだそうだ。確かに俺がそうだと知ったナンシーの反応は凄かった。彼女曰く、自分が夢物語のヒロインになったようだ、夢みたいだと言っていたのだ。
俺のステータスカードを見せ、称号を見ると涙を流していた。
ナンシーが住んでいる所を教えて貰ったが、ギルドの建物の裏にある独身用の寮に住んでいるとの事だった。
笑顔が戻ったナンシーは素敵なレディーだなと、段々惚れてきた。俺ってこんなに惚れっぽかったっけか?…
食事を終え、明日は研修だからと早目に休む事にした。
シェリーには風呂の準備をして先に入るよう言いつけて、ナンシーを寮まで送り届けた。やっぱり可愛いなあ!大切にしたいなぁと思い、帰り際におでこにキスをした。
明日は早々に驚く事になるのだが、今はまだ知らない。
相変わらずシェリーが床で寝ようとしたので、デコピンを喰らわせてからベッドで一緒の布団に入って貰うよう説得をした。
「1人じゃ寂しいから添い寝をして欲しいんだ」
渋々といった感じで頷き、失礼しますと一言言ってから布団に入ってきた。
そしておやすみのキスをし、程なく眠りについた。
あっ!そうそう、本当にただの添い寝だからね。胸さえ触るつもりはないから。そうやって添い寝をして欲しいと言わないと、シェリーは床で寝るからね。まだまだシェリーが奴隷から普通の女の子になるのには時間が掛かりそうだなと、俺はため息をつくのであった。
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